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昭和学士会雑誌
Vol. 76 (2016) No. 5 p. 649-654

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http://doi.org/10.14930/jshowaunivsoc.76.649

臨床報告

老人保健施設(老健)における感染予防は,円滑な在宅復帰を目指すに当たって必須であるだけでなく,感染に関する薬剤費は施設利用料に包括されているため施設経営の面でも重要である.施設の感染予防は手洗いなどの標準予防策が主であり,環境衛生に二酸化塩素ガス放出ゲル剤(以下,ゲル剤)を導入した報告はない.本研究の目的はゲル剤の設置が,感染症の発生頻度と薬剤費に与える影響を検討することである.対象は,老健に入所中の要介護高齢者59名.方法はクロスオーバー比較試験を用いて,対象者をゲル剤設置順に前半群と後半群の2群に分類した.1か月間のゲル剤設置を群ごとに1週間のウォッシュアウト期間を挟んで実施し,感染症の発生頻度を調査した.クロスオーバー後は,対象者をゲル剤設置群とコントロール群の2群に再構成した.また,利用者情報として背景,エネルギー摂取量,エネルギー消費量,エネルギー出納を評価した.薬剤費は研究期間にかかった金額と前年度の同期間の同数に相当する利用者の薬剤費を算出して比較した.全体の感染症発生数は感冒様症状2,インフルエンザ2であった.クロスオーバー後の二酸化塩素ガス群とコントロール群の比較では両群ともに感冒様症状1,インフルエンザ1であり,両群間で差を認めなかった.研究期間の薬剤費は20,515円,前年度同期間の薬剤費は60床あたり120,483円であった.ゲル剤設置の有無による感染症の発生数に差を認めなかったが,各居室に1か月導入することにより,感染症の発生数は大きく低減し,前年度と比較して大幅に薬剤費を抑制できた.利用者の感染症発症頻度が低下したこと自体に加えて,施設職員も業務時間中の半分から3割程度の時間,二酸化塩素ガスに曝露していることが感染リスクの低減に影響していると思われる.この点が交絡要因として作用してゲル剤が設置されていなく二酸化塩素ガスが存在しない場合においても感染症の発症頻度が少なかった原因と考えられる.本研究の結果から,二酸化塩素ガスを導入することは薬剤費にかかる投資を抑制したうえで,効率的な感染症の施設内流行の予防に資するかもしれない.

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