昭和学士会雑誌
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原著
昭和大学藤が丘病院における10年間の皮膚腫瘍の疫学的検討
—術前臨床診断と病理組織診断の一致率を含めて—
笠 ゆりな大歳 晋平伊藤 雄太宇野 裕和中田 土起丈
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2021 年 81 巻 3 号 p. 200-207

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抄録

皮膚腫瘍の内訳および臨床・病理診断の整合性を明らかにする目的で10年間の症例について検討を加えた.2008年1月より2017年12月までに昭和大学藤が丘病院皮膚科で摘出術を行い,病理組織学的検討を加えた2,449名(男性1,171名,女性1,278名,年齢11か月〜99歳,平均年齢56.5 S.D.±20.6歳)から摘除した2,504病変を対象とした.2,504病変中1,837例(73.4%)が良性腫瘍,590例(23.6%)が悪性腫瘍,77例(3.1%)が非腫瘍性変化であった.疾患別では良性腫瘍は表皮囊腫が455例(24.8%),母斑細胞母斑379例(20.6%),脂漏性角化症225例(11.9%),皮膚線維腫90例(4.9%)の順に,悪性腫瘍は基底細胞癌163例(27.6%),光線角化症132例(22.4%),Bowen病91例(15.4%),有棘細胞癌45例(7.6%),悪性黒色腫27例(4.6%)の順に多かった.年齢別の検討では,悪性腫瘍は50代までは50例未満であったが,加齢に伴って上昇し80歳以上では201例で摘除した検体の66.1%を占めた.臨床診断群/病理組織学的診断群の検討では,臨床的に良性腫瘍と診断した1,889例における診断一致率は93.3%(1,762/1,889)で,不一致だった127例のうち62例(3.3%)は悪性腫瘍,65例(3.4%)は非腫瘍性変化であった.臨床的に悪性腫瘍と診断した605例の診断一致率は87.1%(527/605)で,不一致だった78例のうち66例(10.9%)は良性腫瘍,12例(2.0%)は非腫瘍性変化であった.臨床的に良性腫瘍と誤診断した悪性腫瘍62例は,有棘細胞癌10例,悪性黒色腫10例,基底細胞癌9例の順に多かった.有棘細胞癌では10例中4例が脂漏性角化症と診断されていたが,そのうち3例は耳前部に生じた発症初期と考えられる病変であった.悪性黒色腫では10例中8例は母斑細胞母斑と診断されていたが,典型的なdermoscopy所見を呈さない手掌,指趾などの被刺激部位の色素斑には特に注意が必要と考えられた.基底細胞癌は,顔面に生じた4例中3例が母斑細胞母斑と診断されていたが,特徴的な臨床像やdermoscopy所見に乏しい初期病変であった.また良性と誤診された基底細胞癌の9例中5例は顔面以外の非好発部位に生じていた.悪性腫瘍を臨床的に良性腫瘍と誤診断するリスクを減らすためには,未完成な初期病変や出血による修飾,非好発部位発症の可能性などを念頭に置き,部位に応じた慎重な対応を行うことが必要と考えられる.

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