Japan Journal of Human Resource Management
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Book Review
HISAMOTO, Norio Considering Regular Employees in Japan: For the Mainstreaming of Regular Employee Couple Model
Hiroaki SUGIURA
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2019 Volume 20 Issue 1 Pages 45-47

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『新・正社員論―共稼ぎ正社員モデルの提言―』,久本 憲夫 著;中央経済社,2018年3月,A5判・280頁

2019年4月1日より「働き方改革関連法」が順次施行されている。少子高齢化の進展や働き方の多様化に対応するため,長時間労働の是正,非正社員の処遇改善,女性の活躍推進,仕事と家庭の両立,外国人材の受け入れなど,労働を取り巻く環境は大きく変わろうとしている。このような変化のタイミングで,日本人の働き方とはいかなるものか,どのような問題があるのか,一度原点に立ち返って問題を検討することは重要だろう。

本書は,非婚化や少子化の原因ともなっている日本人の働き方を振り返り,その解決策として「共稼ぎ正社員モデル」,すなわち夫婦ともに正社員として働く世帯の主流化を提言している。男性正社員と専業主婦(あるいはパート主婦)から成る「片稼ぎ正社員モデル」では,我が国が抱える様々な問題を解決できない。「正社員」とは何かを追究することは,日本型雇用そのものを考えることである。日本の雇用を考える上で示唆に富む本書について,まず全6章の要約を紹介する。

第1章では,男女雇用平等の現実とワーク・ライフ・バランス(WLB)の意味を検討した上で,「共稼ぎ正社員モデル」の主流化が必要であると主張する。1985年の男女雇用機会均等法により,男性限定の幹部社員への道を「総合職」と名付け,女性にも門戸を開いた。この男女雇用平等は,女性を男性側に合わせる平等であったため,女性管理職の家族形成を阻害した。WLBは仕事と生活の調和と解釈されているが,多くの女性は「稼得労働」と「非稼得労働」(家事や育児など)というワーク・ワーク・バランスに苦しんでいる。最も多い家族形態は「1.2 共稼ぎモデル」であり,夫1妻0.2の収入比で性別役割分業を行っている。男女が雇用面で真に対等になるには「共稼ぎ正社員モデル」の実現が必要であり,それにより非婚化や少子化を克服できる。

第2章では,そもそも正社員とは何であるのか検討する。特に雇用の安定性,賃金水準,能力開発の観点から確認作業を行っている。正社員という用語が使われるようになったのは1980年代で,一般には定義として「期限の定めのない雇用」とされることが多いが,統計調査の多くでは「呼称」を用いている。実際には呼称正社員でも「期限の定めのある」者や,期限の定めのない非正社員も多く存在する。正社員の雇用は安定している印象があるが,正社員の離職率に企業規模間で大きな差はない。日本型雇用の特徴とされる年功的処遇(年功賃金)も近年では弱体化している。能力開発は企業主体で決定されているが,仕事の質に対する社員の裁量は大きく,自発的に判断する能力の育成に貢献している。ただし,仕事量に対する裁量性は低く,長時間労働の温床となっている。

第3章では,共稼ぎ正社員モデルを実現する上で日常の障害になる長時間労働について,労働時間管理という視点から検討を行う。2006年調査であるが,週60時間以上働く正社員は男性で2割,女性で1割弱に及ぶ一方で,男性で3割,女性で5割の正社員は残業をほとんど行わない。一定の残業時間分を支払う「固定残業制」は広く採用されている一方で,固定残業手当以上の残業を行う者は多い。個票データの分析によると,裁量労働制とみなし労働時間制が採用される場合と,労働時間管理がない場合に長時間労働を行う者が多い。また,残業には割増賃金が支払われるが,人件費全体ではなく基本給(一部手当含む)に割増率をかけて計算されるため,実質的には割引賃金で残業させている。

第4章では,共稼ぎ正社員モデルの実現に大きな障害となる転勤について,その現状や役割について検討を行う。転勤を経験する正社員は全体の1割弱であるが,大企業ほど転勤可能性が高くなる傾向がある。正社員には転勤があり昇進のため必要であるという印象があるが,企業調査から見ると必ずしもそうではない。ただし,課長相当職に就くには複数の部門や仕事の経験が必要とされている。「勤務地限定正社員」という制度が広がりを見せているが,共稼ぎ正社員モデルの1つのあり方として重要である。

第5章では,正社員の目標とされてきた管理職について分析を行う。職位として管理職を見た場合,かつては半数近くが定年までに課長級になれたが,現在では課長級に就くことは容易ではない。管理職の実態を見ると実際に「管理的職業」に就く者は少なく,管理職としての仕事の割合が低い「プレイング・マネジャー」が多い。多くの管理職で通常の勤務時間制度が採用されており,管理職の仕事の割合が低くても「管理監督者」として労働時間規制から外されている者も多い。これは誤った意味で「ホワイトカラー・エグゼンプション」となっている。女性管理職には独身が多く,家族形成に大きな困難を抱えている。

第6章では,WLBの実現に向けた改革案として,長時間労働を促進するインセンティブを除去し,公正な労働市場ルールの確立が必要であると主張する。具体的には,労働時間口座を作る,人件費を基に割増賃金を計算する,残業を例外として位置付ける,年次有給休暇の時効をなくす,転勤を拒否する権利を認めるなどである。また,従業員の過半数代表者の正当性を検討して安易な協定の締結を防ぐこと,共稼ぎ正社員モデルを前提とした労使関係を築くことも提案している。なお,補論も極めて充実しているが,紙幅の都合で省略させて頂く。

続いて本書の内容を検討したい。第1章の冒頭に世帯類型のもう少し詳細な分析があると,「共稼ぎ正社員モデル」の位置付けがより明確になったと考える。男女共同参画白書で示されてきたように,共稼ぎ世帯は増加の一途をたどり,片稼ぎ世帯は一貫して減少している。2018年の労働力調査(詳細集計)によると,夫婦とも就業者である1496万世帯のうち,「共稼ぎ正社員モデル」に近い,夫婦とも300万円以上の収入がある世帯は306万世帯(20.5%)であった。「1.2共稼ぎモデル」に近い,夫300万円以上で妻149万円以下の世帯は563万世帯(37.6%)である一方で,夫婦ともに非正規と思われる世帯(夫妻とも199万円以下)は113万世帯(7.6%)である。このデータから,確かに「共稼ぎ正社員モデル」は主流化していない。出産や育児でキャリアを断念する女性が多いことや,高いスキルを持つ専業主婦の活躍が不十分であることなどを考えれば,とても男女雇用平等とは言えない。筆者が提言する「共稼ぎ」とは,男女が互角の稼得能力を発揮する状態なのだ。

第2章の正社員をどのように考えるのかという点について,佐藤博樹氏らのグループが行った「多様な正社員」の調査結果に積極的に触れるべきであったと思う。無期労働契約でありながら,職種,勤務地,労働時間等が限定的な「多様な正社員」の導入は,非正社員から正社員への転換を拡大し,WLBの実現に資する可能性がある。ただし,評者は女性活躍が進む北欧を視察して,正社員を多様化させなくても,残業のない正社員を男女で実現することで女性が活躍する活路があると見ている。残業のコスト意識を高め,残業をなくすべきという筆者の主張には強く賛同する。

濱口桂一郎氏が普及させた「パートナーシップ型」と「ジョブ型」という用語は,本書のように正社員にのみ限定されて使用されるものではない。日本型雇用システムにおいては,「メンバーシップ型雇用」の正社員は職能給ベースの年功賃金と長期雇用が保障されるが,「ジョブ型雇用」の非正社員には職務給が支払われ雇用の保障はない。このように大きく異なる雇用体系が併存している矛盾と,時代の要請や法体系との不適合が同時に起きていると思う。海外におけるregular employmentが日本の正規雇用(正社員)とどの程度似ているのか。労働・残業時間,職務の幅,給与体系など比較検討すべき点は多い。

第4章では,共稼ぎ正社員モデルを実現する上で,転勤の存在が事実上最大の障害であることが示される。特に大企業正社員同士の結婚では,夫婦どちらかが退職あるいは別居が必要であり,筆者の主張はやや歯切れが悪い。現状として育児や介護を理由に,転勤を命じられた社員が離職するケースも増えており,この問題への対処は不可避だ。企業の一方的な命令ではなく,転勤を受け入れる社員を見極めることや,配偶者の転勤に伴って同業者間で転職を可能にする制度が注目を集めている。情報通信技術の活用で,不必要な転勤を減らすことも模索すべきだ。

本書全体のトーンとして,制度面への偏りがあり,運用面に対する考察がやや弱い。例えば,第3章の月間労働時間に関する分析では,データの制約から勤務時間制度など制度面の要因に特化しているが,実際には仕事の内容や上司との関係など運用面の要因も大きいと思う。第6章の改革案も基本的には制度面に対するものであり,定時退社でも従来以上の成果を出す生産性向上策や,労働時間削減や労務管理に情報通信技術を活用する方策には触れられていない。共稼ぎを前提とする働き方を提言するのであれば,どのような処遇にすれば女性が働きやすくなるのかといった実践的な側面の検討も不足している。もちろん以上は評者の一方的な願望に過ぎない。

日本型雇用を改革すべきタイミングであった1990年代後半から2000年代初頭にかけて,我が国は未曽有の不況に陥った。非正規雇用が拡大する中で,女性の活躍の場を広げる雰囲気にならなかったことは大きな損失である。長期雇用を守るために,当時の多くの若者が犠牲となって非正規に陥り,現在でも「中年フリーター」として不自由な暮らしを続けている。昨今の日本経済が抱える問題は相互に絡み合っており,本書のように大局的な視点から問題の所在や解決策を探ることが肝要である。日本人の働き方を丁寧に検討し,時代の要請に応える新たな働き方を敢然と提言する姿勢を称賛したい。最後に,補論の正社員の歴史は抜群の面白さである。

(評者=愛知大学経済学部教授)

 
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