2025 年 24 巻 3 号 p. 179-184
リプロダクティブ・ライツを尊重した周術期・再発乳癌診療を行った遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)の1例を経験した.症例は挙児希望のある35歳女性.右原発乳癌に対し,胚凍結の後,乳房部分切除術とセンチネルリンパ節生検を施行した.術後にHBOC(BRCA1病的バリアント陽性)と診断された.エストロゲン受容体(ER)弱陽性HER2陰性乳癌pT2N0M0/stage ⅡAに対する術後治療方針として,化学療法・放射線治療後に妊娠・出産を目指し,出産後にリスク低減卵管卵巣摘出術と内分泌療法を行う予定であった.しかし,術後1年6カ月,妊娠15週で胸壁・肝・骨への再発(ER陰性HER2陰性)が見つかった.患者の希望を尊重し,妊娠継続と乳癌治療の両立を図り,妊娠33週で児を出産後も治療を継続したが,再発後1年0カ月で逝去された.治療中,児の存在が患者本人・家族の心の支えとなった.生殖年齢にあるHBOC症例の周術期・再発乳癌診療について,文献学的考察を含めて報告する.