抄録
アジア高山域においては,近い将来の氷河の消失に加えて,将来の人口増加と地球温暖化にともなう乾燥化の予測もあり,水資源逼迫が懸念されている.一方で,継続的な氷河質量収支の観測値は極めて不足している.これまでアジア高山域の氷河質量変化量は様々な手法によりその推定が行われてきたが,各手法の推定結果には差異があり,氷河質量変化の推定には大きな不確実性が伴うと言わざるを得ない.本研究ではアジア高山域において,過去から将来に渡って氷河質量変化の算定が可能な氷河モデルによる数値シミュレーションに着目した.モデルのインプットデータである降水量は気温に比べて空間変動が大きいため,算定結果に大きな影響を与える.現存する雨量計データを基にしたデータセットでは山岳地域の降水量の正確な空間分布を表現できていないため,降水量データの改良が求められている.したがって、本研究では氷河の質量変化算定に不確実性の高いヒマラヤとその周辺地域において(1) 衛星レーダを用いて高空間分解能の降水量データセットを作成する.(2) 作成した降水量データセットを用い、氷河質量変化を算定する.はじめに衛星観測と雨量計観測を組み合わせて,空間分解能約0.05°の日降水量インプットデータを作成した.さらにこのインプットデータを利用し,氷河モデルにより氷河質量変化の算定を行った.まず,衛星レーダ観測からは年降水量の10年平均を求めた.衛星観測値は観測誤差を含むため,雨量計観測を用いて雨,雪領域別に年平均降水量を補正した.時系列データには雨量計観測の日降水量の時間変化を適用した.ここでは衛星観測と雨量計観測の年平均降水量の各グリッドの比は常に一定とし,雨量計の日降水量にその比を乗じた.氷河質量変化の算定においては,氷河の涵養と消耗のプロセスを降水量と気温を基に計算することのできる氷河モデルを利用した.氷河モデルでは個々の氷河において,鉛直方向50mの標高帯ごとの積雪と氷河の質量収支の計算を行う.本研究では,雨量計観測の不足していたヒマラヤとその周辺の山岳地域において,高空間分解能を持つ降水量インプットデータを作成した.これをもとに個別の氷河質量収支を計算した.