抄録
地球システムの動態把握には炭素や窒素といった物質循環が重要であり,河川による物質輸送過程は水温の影響下にある.これらの将来予測や人間活動の影響評価といった外挿推計を行う為に,本研究では全球規模で河川水温を計算するオイラー的決定論モデルを開発した.このモデルは1次元の質量,運動量,熱量保存則を解く.前2者は既往の河川流下モデルから,流出水温は既往の陸面過程モデルから計算され,熱フラックスは気象外力データを用いて計算される.又河氷の生成,融解過程については水の過冷却を無視した熱量,質量保存則によって計算される.このモデルの検証は全球の月平均河川水温データによって行われた.その結果,中緯度地域では河川水温が良好に再現される一方で,低緯度地域の氾濫河川については氾濫原での熱収支を,高緯度地域の結氷河川については河氷の存在を考慮することで河川水温の再現性が向上したことが確認された.本モデルは河氷の断面,上下流分布やアイスジャムの影響,地下水と河川水の相互作用等について簡略化した扱いを行っているが,対象とする現象によってはこれらの物理過程を改善する必要がある.