1997 年 4 巻 1 号 p. 59-64
多臓器不全および広範囲小腸壊死を合併しながらも,救命できたクラッシュ症候群(crush syndrome)を報告した。症例は50歳女性で,1995年1月阪神・淡路大震災で下腹部,腰部と両側大腿部に強い挫滅を受け,腎不全,播種性血管内凝固(DIC),麻痺性イレウス,肺化膿症,肝不全を併発し,治療に難渋した。挫滅を受けた両側大腿部は筋膜切開は行なわず保存的に治療したが,下肢の運動機能は障害を残さず回復した。麻痺性イレウスは,腹部CT検査や理学所見に小腸損傷など手術適応所見がないまま遷延した。28病日になって腹部超音波検査にて急速に発生した腫瘤を認め,開腹術にて小腸壊死に伴う壁内血腫を確認し,広範囲小腸切除を行なった。挫滅部位の筋膜切開の適応,遷延する麻痺性イレウスの病態について考察した。