2012 年 30 巻 2 号 p. 2_67-2_80
従来視覚障害者は、ボランティアや福祉機関の支援のもと、書籍を点訳したり、音訳したりして読書を行ってきた。IT技術の普及以降、スキャナで書籍を読み取り、OCR処理を行うことにより、効率化が図られている。しかし、デジタル化作業には依然多大なコストと時間がかかり、読みたいときに読みたい本を読める状況にはない。
だが電子書籍が普及すれば、電子書籍のテキストデータをスクリーン・リーダーや合成音声技術を通じて読み上げることが可能となり、障害者は健常者と同じタイミングで、本を利用することが可能になると期待される。実際に、米国ではAmazonのKindleや、AppleのiPadで購入した電子書籍の多くが読み上げ可能な形となっているが、現在、日本の電子書籍においては実用的な段階にない。
本論文では、日本において現段階で利用可能な視覚障害者向けの音声読み上げ機能について評価し、国内での電子書籍の普及の時代を見据えた、書籍の音声読み上げ環境を実現するための課題を明らかにする。