個別に魚道を整備した水田における水収支の変化に着目した総合的な水管理に関して検証した例はいまだ少ない.そこで,魚道を設置した水田圃場において魚類生息状況,水収支を調査し,より魚類保全機能を発揮させる水管理がこれらに及ぼす影響について考察した.その結果,用排水量の増加に伴う栽培管理用水量の増大とともに,用水路と排水路からの魚類の進入機会が増えて,魚類保全機能が強化されることを確認した.魚道設置水田において推奨されると考えられる落水口堰板天端高さに田面水位を保つ天端管理では,一例として通常管理よりも取水量が1.3倍,排水量が1.6倍になることを示した.さらに,こうした魚類保全機能を強化させるための用排水量変化に対して,「魚道管理用水」,「魚類保全有効降雨」といった新たな概念導入の必要性を論じた.