上野英三郎の「耕地整理講義」は,農業土木学を確立した著書として高く評価される一方で,方法論は観念的との見方が広く受け入れられている.しかし,上野が農法の発達に則した耕地形態の実現を目指したという重要な事項は看過され,評価は一面的なものとなっている.本論では上野の視点と姿勢をもとに耕地整理講義の再評価を試み,上野の技術観について述べた.また,本書が耕地整理の技術原理に基づく計画指針として読まれるなら今後の農業土木学に新たな視野を提示してくれることを論じた.一方,上野は適切な耕地形態実現に必要な換地・農具改良等の技術開発について,狭い工学概念に縛られて対応せず,その後の農業土木学の保守性に影響を及ぼした可能性があることを指摘した.