2010 年 20 巻 3 号 p. 293-310
翻訳の背景にある解釈については古くから翻訳の比較や背景的な思想の分析が行われてきたが,人文学的手法によるものであるため客観性の担保が困難で,大規模な比較分析には適さなかった.本研究では情報技術を活用し,計量的な翻訳の比較と背景的思想の特徴抽出を行う手法を提案する.まず,原文と翻訳文の対応語彙の特定・抽出アルゴリズムを考案した.単語の一対一対応の仮定,被特定単語の除去による相互情報量の再計算,閾値の漸近的低減を組み合わせることで従来の手法に比べて再現率が20%程度向上し,一つの単語の複数の単語への対応も抽出可能となった.次に,語彙の対応関係を用いて二種類のネットワークを作成し中心性の計算から各翻訳での特徴的な概念を示す単語を抽出した.抽出結果は,翻訳作成の背景的な思想と合致しており,分析手法の有効性が確認された.