2024 年 34 巻 2 号 p. 190-195
本研究では,市民自らが地方史統計データをインタラクティブに体験し,知的探索や触発を可能とする情報表現手法のあるべき姿を探究している.本論では,情報表現手法の一つとしてデータの物理化に着目する.データの物理化とは,データを物質の性質や形状を通して物理的に表現することで,グラフや図などの可視化された表現による体験だけでなく,ものに触れることによるデータの直感的な知覚が可能である.市民にとって関わりの深い土地や文化にまつわるデータを物理的に表現することで,市民が身近なものとして歴史を感じ,触発を促すような体験の実現を目指す.地方史統計史料のデジタルアーカイビングにおいては,特に市民との関わりの中で共創的に醸成されることが重要である.市民自らによるデータの校正や探索,結果の共有などの市民参加型プロセスの考察と,プロセスにおけるデータの物理化の位置付けや可能性について論じる.