2012 年 2012 巻 618 号 p. 618_189-618_208
2010年10月に金融ADRの制度が発足し,以後1年半ほどの活動実績が明らかになった。今後の展開を考察するためには,そもそもADRとは何か,金融ADRとはどのような意義があるのかという論理的な検討が必要であり,例えば,裁判とはまったく異なる自主解決のための手続きであること,業界団体が大きな役割を担っていることなどが重要なポイントになる。また,ADRの先進国である豪州の金融ADRの実情も本考察には参考になり,苦情・紛争のプロセスに応じたシステマチックな体制整備や専門家集団の養成について,成熟度の高い仕組みが出来上がっている。今後の金融ADRと損保ADRの展開にあたっては,(1)苦情申立ての初期段階における手続きの再整備,(2)顧客側がADRの何たるかを理解することの重要性とその周知,(3)ADRの成熟化がビジネスモデルに与える好影響,そして(4)ADRにおける事実認定問題の限界性と裁判との役割分担,の4点について検討を加える必要がある。