2012 年 2012 巻 618 号 p. 618_97-618_116
保険法は,損害てん補方式の保険契約について損害防止義務を定め,その費用を支払対象と規定するが,その内容は約款で大幅に変更される場合も多い。ヨーロッパ保険契約法原則は,この問題を因果関係の問題と位置付けていて注目される。損害防止費用を分析すると,複雑性,予測困難性,複合性等の特徴があり,損害防止側と保険者側において損害の認識に違いがある場合があり,被保険者等に義務を課して対応費用をてん補する理論が適合するか疑問がある。課すべき義務は保険の存在によって損害を悪化させてはならないという消極的義務と考えられ,そうであれば費用てん補は特に追加して支払うものといえる。この制度は損害てん補の給付方式に特有といえるかも疑問で,モラル・ハザード等をもとに保険種目毎に実態に応じた設計が必要で,保険法の解釈においてもこれらの特徴を踏まえる必要がある。