抄録
日本では,未成年者を被保険者とする死亡保険契約について,保険法上特段の規定はなく,道徳危険については,保険者の自主規制や金融庁の監督によって対応がなされている。すなわち,保険金額の相当性および適切な引受・支払基準の構築,その遵守など,運用上の問題に収束したといえる。一方,諸外国に目を向けると,未成年者を被保険者とする死亡保険契約については,立法上制限を設ける例が多数みられる。多くの場合,意思能力の有無を判断材料とし,保険契約を禁止したり,保険金額を制限したりしている。これは,被保険者の同意とは,当該保険について了承する意思表示であるとともに,道徳危険を伴う保険についての自己決定であるとして,未成年者といえども代理による同意を実質的に認めない。
我が国の未成年者の生命保険契約は,過去の事例からも道徳危険性は少ないとされてもいるが,意思能力の有無に基づく保険契約上の規制が必要であると思われる。