2016 年 2016 巻 632 号 p. 632_147-632_167
アメリカにおいて責任保険者が防御義務を負うか否かは,第一に訴状における主張から判断されるが,訴状における主張が担保範囲外のものであっても,外部情報により被保険者の責任が担保範囲内であることを保険者が知っている場合,防御義務を負うという可能性基準ルールを用いて通常判断している。このため,例外的な状況を除いて,保険者は防御義務を負うことになるが,防御義務を負う状況の中には保険者と被保険者との間に利益衝突を生じさせる状況がある。そこで,保険者の権利を保護するために条件付の防御を認めることもあるが,そのような防御では利益衝突は解消されない。また,利益衝突を解消する制度としての宣言的救済判決は万能の制度とはいえず,このような場合の解決手段として十分ではない。アメリカでは保険者が防御義務を負う範囲が広いことから,被保険者の利益に資する面もあるが,多くの悩ましい利益衝突の状況も作り出しているといえる。