2023 年 34 巻 1 号 p. 17-20
安全は最も大切な価値の一つであり、許容できないリスクがない状態と定義されている。社会に提供される製品やサービスには、安全性・利便性・経済性が求められるが、これらはトレードオフの関係にあり、そのより良いバランスを追求するのが科学者(技術者・研究者)の役割である。そのためには安全が確信できない時は危険であることを前提に行動する必要がある。また、人々の安全に対する価値の多様性と、自発的か否かによって許容できるリスクのレベルが異なることを考慮しなければならない。法やルールは後追いであるのに対して、科学者は新規性を重視し、ルールがない世界を開拓する。このため、得られた知や利便を社会実装する際に生じる様々な問題を予測して回避する責務を負う。さらに、それに必要なルールを提案する責務を負い、Kohlberg が言う脱慣習レベルの倫理意識が求められる。社会の安全・安心に貢献することはwell-being を得るために最も重要な要件を満たし、私たち科学者自身のwell-being につながる。