2017 年 63 巻 4 号 p. 211-225
本研究は戦前期東京における公共図書館の女性利用者の実態を明らかにすることを目的とする。1930 年代東京市立図書館を中心に調査した結果,利用者数は全体の1 割程度であり,26歳以上の利用者の存在は稀であった。彼女らは裕福かつ教育レベルの高い階層であった。また,平日よりも休日に多く利用する傾向にあった。
女性利用者が少ないこと,年齢層が若年層に限定されていたことの要因としては,(1)図書館を利用する習慣を持つ女性は限られていたこと,(2)読書する習慣を持つ女性であっても結婚後は図書館を利用する機会はほぼなかったこと,(3)婦人閲覧室の設置状態が貧弱だったこと,(4)当時の女性は“女性に読書は不要である”という,女性が読書をすることに否定的な社会的風潮の中に置かれていたことが挙げられる。
つまり,戦前期日本における女性の図書館利用に関しては,女性の社会的地位が低いという当時の時代背景が大きく関連していた。