2019 Volume 40 Issue 1 Pages 57-61
化学放射線療法または放射線療法後の局所遺残・再発食道癌に対するタラポルフィンナトリウム(レザフィリン®)および半導体レーザを用いた光線力学的療法(Photodynamic therapy: PDT)が2015年10月に薬事承認され保険収載された.当院では薬事承認後の2015年10月から2018年6月までに初回のレザフィリンPDTを28例に施行し,局所完全奏効率(L-CR率)は53.6%(15/28例)であった.特にPDT前の超音波内視鏡検査で深達度T1bと診断した症例でのL-CR率は60%(12/20例)であった.1例に食道気管支瘻が発生した.レザフィリンPDTは化学放射線療法または放射線療法後の局所遺残・再発食道癌に対するサルベージ治療の選択肢として有用であると考えられる.
食道癌は男性に多く,日本人男性の罹患数は約19,000人(2014年),死亡数は約9,500人(2016年,部位別で第7位),5年相対生存率36%の予後不良な難治性癌である1).病期進行度により内視鏡的切除,外科手術,化学療法,放射線療法(Radiation therapy: RT)などが選択され,それぞれを効果的に組み合わせ集学的治療が行われる.化学放射線療法(Chemoradiation therapy: CRT)は,食道温存が可能であり,stage Iで約90%2),stage II–IIIで約60%3),stage IVで約30%4)と高い奏効率が得られる一方,局所の遺残・再発率が30–40%にのぼる5,6).食道癌の治療成績向上のためには遺残・再発病変に対する救済治療(サルベージ治療)が重要となる.遺残・再発病変が粘膜内にとどまる場合は内視鏡的切除にて根治が期待できるが7,8),粘膜下層以深の病変は一般に外科手術が選択肢となる.しかし,CRT後の外科手術は,術後合併症のリスクが高く9-13),手術適応が困難な症例や手術拒否症例も少なくない.一方,CRT後の遺残・再発病変に対する化学療法では,2次治療としてタキサン系単剤での治療が一般的だが,奏効率が約20–40%,完全奏効率が約0–8%であり,根治を目指すのは難しい14,15).そのため,食道局所のみの遺残・再発病変で内視鏡治療や手術が困難な症例に対して,これまでポルフィマーナトリウム(フォトフリン®)とエキシマダイレーザを用いた光線力学的療法(フォトフリンPDT)が試みられていたが16,17),進行食道癌には保険適応がないことに加え遮光期間が4週間と長いことやレーザ装置が大きく持ち運び不可であることが問題となっていた.
そこで我々は,CRTまたはRT後の局所遺残・再発食道癌に対して,第2世代の光感受性物質であるタラポルフィンナトリウム(レザフィリン®)と半導体レーザを用いたPDT(レザフィリンPDT)の医師主導治験を実施した.その結果,深達度T1b,T2の局所遺残・再発病変に対して局所完全奏効率(Local complete response率:L-CR率)88.5%と高い治療効果を示し,重篤な有害事象もなく,安全性が高いことも示された18).医師主導治験における良好な治療成績と安全性に基づき,2015年10月にレザフィリンPDTが保険収載された.レザフィリンPDTでは遮光期間が2週間と短縮され,半導体レーザ装置も実用性に優れた機器となったため,フォトフリンPDTの問題点を解決できるサルベージ治療として期待される(Table 1).
特性 | フォトフリンPDT | レザフィリンPDT | |
---|---|---|---|
機器説明 | 発端子 | エキシマレーザ | 半導体レーザ |
レーザ波長 | 630 nm | 664 nm | |
大きさ,重量 | 145 × 69 × 131.5 cm,600 kg | 40 × 40 × 21.5 cm,14 kg | |
機器価格 | 4,500万円 | 900万円 | |
薬剤説明 | 光感受性物質 | ポルフィマーナトリウム(フォトフリン®) | タラポルフィリンナトリウム(レザフィリン®) |
薬剤投与から照射までの時間 | 48~72時間後 | 4~6時間後 | |
遮光時間 | 1か月 | 2週間 | |
光過敏症 | 20~40% | 6.1% |
CRTまたはRT後の局所遺残・再発食道癌病変に対してレザフィリンPDTが保険収載され3年が経過した.実臨床においてレザフィリンPDTを施行した患者の背景と,その治療成績及び安全性を評価することを目的として,薬事承認後の症例について検討した.
京都大学医学部附属病院において2015年10月から2018年6月までに初回のレザフィリンPDTを施行したCRTもしくはRT後局所遺残・再発食道癌28例を対象とした.患者背景,治療経過,副作用について診療記録を参照し,後ろ向き観察研究を行った.主要評価項目は有効性(L-CR率),副次的評価項目は安全性とした.
レザフィリンPDTの適応は,1)CRTまたはRT後の局所遺残・再発食道癌である,2)PDT前の壁深達度が固有筋層(T2)を越えない,3)長径が3 cm以内かつ周在性が1/2周以内,4)PDT前に遠隔転移およびリンパ節転移を有さない,5)放射線治療前に原発巣の大動脈への直接浸潤(Aorta T4)を認めない,6)外科手術が不可能もしくは患者拒否,のいずれも満たす症例である.深達度評価は超音波内視鏡(EUS)(ミニチュアプローブ20 MHz)により施行した.
食道癌に対するレザフィリンPDTの方法は,レザフィリン40 mg/m2を静脈内投与し4時間後に上部消化管内視鏡観察下に,半導体レーザを用いて664 nmのレーザ光を,照射パワー密度150 mW/cm2,照射エネルギー密度100 J/cm2で病変部に照射した.翌日の内視鏡検査で1)粘膜下腫瘍様隆起成分の残存,2)腫瘍性粘膜,潰瘍の残存,3)発赤または暗青色の色調変化を伴う浮腫状粘膜の欠落,のいずれかを認めた場合には初日のPDT治療の効果が不十分と判断し,上記と同様の条件で追加のレーザ照射を行った.追加照射時は,レザフィリンは再投与せず,レーザ照射のみを行った.PDTの治療効果判定は,a)内視鏡検査で明らかな腫瘍の遺残を認めない,b)内視鏡検査で治療部が瘢痕化している,c)組織生検で癌陰性が証明される,の全てを満たす場合にL-CRと判定した.
安全性については診療記録を参照し,CTCAE ver419)を用いて副作用を評価した.レザフィリンの副作用として光線過敏反応があり,以下のように患者管理を行った.レザフィリン投与後は直射日光を避け,照度500ルクス以下に調整した室内で過ごし,室外に出る時は皮膚や眼が露出しないよう帽子,手袋,長袖等の衣服,サングラスなどで遮光するよう指導した.また,毎日日焼け止めクリームを塗布してもらった.レザフィリン投与1週間以降に光線過敏性試験(手の甲側に直射日光を5分間曝露)を行い,紅斑や水疱等の光線過敏反応が見られなくなれば遮光管理を解除した.PDT施行日より2週間は入院管理とし,遮光解除後に退院とした.退院後もレザフィリン投与後1か月以内の外出に際しては直射日光を避けさせるよう指導した.
患者背景をTable 2に示す.男性22例,女性6例と男性が多く,年齢中央値は73歳であった.80歳以上の症例も7例含まれている.病理組織像は扁平上皮癌が27例で,腺癌は1例のみであった.遺残・再発は,遺残が5例,局所再発が23例,部位はMtが最も多く見られた.CRT前のT stageはT1が最も多いが,気管T4も2例で見られた.PDT前T stageでは,T1が20例,T2が8例で,T1は全例T1bであった.PDT前N stageは1例のみ鎖骨上リンパ節転移症例が含まれているが,先に外科的にリンパ節切除を施行しその後食道局所再発部位に対してPDTを施行した.Day 1(PDT当日)のレーザ照射量中央値は475 J(範囲200–700 J)で,Day 2に追加照射を行った16例(57.1%)の中央値は100 J(範囲100–200 J),合計で500 J(範囲250–800 J)だった(Table 3).
患者背景 | 28例 | |
---|---|---|
性別 | 男性/女性 | 22/6 |
年齢 | 中央値(範囲) | 73歳(45–102歳) |
Performance status | 0/1 | 27/1 |
病理組織像 | 扁平上皮癌/腺癌 | 27/1 |
遺残or再発 | 遺残/局所再発 | 5/23 |
部位 | Ce/Ut/Mt/Lt | 1/7/13/7 |
CRT前T stage | T1a/T1b/T2/T3/T4 | 3/12/5/6/2 |
CRT前N stage | N0/N1/N2 | 18/5/5 |
PDT前T stage | T1b/T2 | 20/8 |
PDT前N stage | N0/N1/N2 | 27/1/0 |
症例数 | レーザ照射量中央値(範囲) | |
---|---|---|
Day 1(PDT当日) | 28例 | 475 J(200–700 J) |
Day 2(翌日追加照射) | 16例 | 100 J(100–200 J) |
Total | 28例 | 500 J(250–800 J) |
有効性については,全28例中15例でL-CRが得られ,L-CR率は53.6%であった.EUSで治療前にT1bと診断した病変20例では,12例でL-CRが得られ,L-CR率は60%,T2と診断した病変8例では,3例でL-CRが得られ,L-CR率は37.5%であった(Table 4).
症例 | L-CR | non CR | 判定困難 | L-CR率(95%信頼区間) |
---|---|---|---|---|
全症例(28例) | 15例 | 12例 | 1例 | 53.6%(33.9–72.5%) |
T1病変(20例) | 12例 | 7例 | 1例 | 60.0%(36.1–80.9%) |
T2病変(8例) | 3例 | 5例 | 0例 | 37.5%(8.5–75.5%) |
Table 5に安全性を示す.22例(78.6%)でなんらかの副作用を認めており,Grade 1の食道痛が46.4%,38°C以上の発熱が25%の症例で見られた.また,2例で内視鏡観察時のスコープ刺激によりPDT後潰瘍からgrade 2の消化管出血が見られ,1例でPDT後潰瘍辺縁からgrade 3の消化管出血が見られ内視鏡的に止血した.食道狭窄は7例(25%)で生じ,そのうち5例で内視鏡的拡張術を要した.拡張術を施行した症例のうち3例は拡張術にてコントロール可能であったが,2例は難治性食道狭窄を来たしてRIC(Radial incision and cutting)20)を施行した.皮膚光線過敏症は1例も認めなかった.1例でPDT後に食道気管支瘻を来たし,重症肺炎から呼吸不全を来たし死亡した症例があった.
副作用 | G1-2 | G3 | G4 | G5 | 全体(%) |
---|---|---|---|---|---|
食道痛 | 13 | 0 | 0 | 0 | 13(46.4) |
発熱 | 7 | 0 | 0 | 0 | 7(25.0) |
食道狭窄 | 7 | 0 | 0 | 0 | 7(25.0) |
悪心・嘔吐 | 5 | 0 | 0 | 0 | 5(17.9) |
出血 | 2 | 1 | 0 | 0 | 3(10.7) |
せん妄 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1(3.6) |
食道瘻 | 0 | 0 | 0 | 1 | 1(3.6) |
光線過敏症 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0(0) |
CRTまたはRT後の局所遺残・再発食道癌に対してレザフィリンPDTが薬事承認され,3年が経過した.京都大学医学部附属病院ではレザフィリンPDT適応の新規症例は年間約10例,PDT後の遺残再発病変に対して再PDTを施行した症例も含めると年間約15例施行してきた.今回,薬事承認後の新規28症例の有効性と安全性について検討した.
有効性については,L-CRは53.6%(15/28例)であり,PDT前深達度がT1bの症例では60%(12/20例),T2の症例では37.5%(3/8例)であった.T1bでL-CRを得られなかった症例には,PDT後遺残病変に対するEUS再評価にてT2深層まで病変が浸潤している可能性が示され,深部遺残があったもの,すなわち元々T2であったと想定された.CRT後は食道壁の層構造が不明瞭であることも多く,EUSによるPDT前の正確な深達度診断が困難であった可能性も考えられた.また,再発例には,病変が半周近くある症例やバレット腺癌で病変範囲が不明瞭であった症例が含まれていたが,再PDTやAPC併用にて局所コントロールが得られている症例も見られる.今後は,このような病変に対しては,計画的なPDTも検討が必要と考えられた.T2症例では,浅層浸潤の病変であればL-CRを得られる可能性があるが,深層浸潤している病変に対してはL-CRを得ることが困難であった.T2深層以深の症例は,可能であれば外科手術を勧めるべきと思われた.
安全性については,1例で食道気管支瘻を来たし,重症肺炎から死亡した症例を経験した.本症例は局所再発病変がCRT後狭窄部をまたぐように存在しており,細径スコープを用いて計700 J(主病変に600 J,副病変に100 J,翌日追加照射なし)を照射した.狭窄を伴っていたため照射が安定せずに近接照射により過照射になった可能性が考えられる.PDTは照射範囲を少しずつ重ねるようにしてレーザ照射を行うが,照射量が過度にならないように注意する必要がある.最高合計照射量は本研究では800 J,医師主導治験では900 Jであるが,穿孔例も鑑みできるだけ700 Jを越えないよう注意している.また,抗凝固剤,抗血小板剤2剤内服中の症例でPDT 2週間後にPDT後潰瘍からgrade 3の消化管出血を来たし,内視鏡的に止血した症例を経験した.サルベージPDT後2週間前後が潰瘍形成のピークになるが,深掘れ潰瘍を呈する症例もあり,出血傾向のある場合は注意を要すると考えられた.さらに,28例中7例で食道狭窄を来たした.レーザ照射に伴う潰瘍が広範囲となった症例が狭窄を来たしやすく注意が必要である.RICを施行した2症例は,頸部食道癌症例とPDT前からCRT後狭窄を来たしていた症例であり,難治性食道狭窄の高リスクであると考えられる.フォトフリンPDTの際には20–40%に出現すると報告されていた皮膚光線過敏症は,レザフィリンPDTでは認めず,適切な遮光管理(少なくとも2週間以内は500ルクス以内)により予防可能と考えられた.
CRTもしくはRT後の局所遺残・再発食道癌病変に対するレザフィリンPDTは,実臨床においてL-CR率53.6%,PDT前T1b症例に限ると60%であり,効果的なサルベージ治療であると考えられる.80歳以上の高齢者にも比較的安全に施行されているが,1例にgrade 3の消化管出血,1例にgrade 5の食道気管支瘻が発生しており,出血傾向のある症例や過照射には十分注意して行う必要がある.
利益相反なし.