日本レーザー医学会誌
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原著
レーザー治療を行った乳児血管腫の多変量解析による統計学的検討
佐藤 恵 平野 由美池田 果林中尾 沙良堀 圭二朗井砂 司
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2019 年 40 巻 2 号 p. 109-112

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Abstract

2010年1月から2016年9月までの期間に,東京女子医科大学東医療センター形成外科でレーザー治療が終了した生後1カ月から42カ月までの乳児血管腫152症例(男児34例,女児118例)を対象とした.今回,レーザー治療を行った症例について,特に合併症の有無に関して統計学的検討を行い,レーザー治療の合併症の発症因子は,乳児血管腫の面積が4 cm2以上,照射回数6回以上,未熟児の3項目に有意差を認めた.

Translated Abstract

We enrolled 152 infants aged 1 to 42 months old with infantile hemangioma by laser treatment in Tokyo Women’s Medical University Medical Center East Plastic surgery from January 2011 to September 2016. This time, we investigate complication of infantile hemangioma by laser treatment. The risk factor of it is concerned to be infantile hemangioma area ≥4 cm2, number of times ≥6, premature baby.

1.  緒言

乳児血管腫は,乳児期に最も多い腫瘍である1).自然消退傾向があり,レーザー治療の必要性について意見が分かれている2)昨今,統計的な検討をされることはほとんどない.当科では,レーザー治療を行うことでwait and see policyで経過をみていた後に生ずる萎縮性瘢痕や色素沈着などを最小限にとどめることを治療目的としている.今回,レーザー治療を行った症例について,特に合併症の有無に関して統計学的検討を行ったので,若干の文献的考察を加えて報告する.

2.  目的

乳児血管腫に対するレーザー治療の合併症を把握し,統計学的処理で発症因子を推測することを目的とする.

3.  対象と方法

2010年1月から2016年9月までの期間に,東京女子医科大学東医療センター形成外科でレーザー治療が終了した生後1カ月から42カ月までの乳児血管腫152症例(男児34例,女児118例)を対象とした.使用したレーザー機器はロングパルス色素レーザー(VbeamTM,Candela社,米国)であり,初回照射設定はスポットサイズ7 mm,パルス幅20 msec,出力10 J/cm2,皮膚冷却装置(DCD)40/20 msecで行い,治療経過を確認しながら出力を調整し,最高出力は12 J/cm2とした.出力指標として紫斑形成は考慮しなかった.治療途中の症例は除外した.合併症は,萎縮性瘢痕,色素沈着,色素脱失を主とし,レーザー治療に携わらない形成外科医師2名が,治療終了後半年以上経過した写真をもとに検討した.評価項目は,性別,部位(頭頚部,体幹,四肢),形状(局面型,腫瘤型,皮下型(局面型が合併する症例))に対してレーザー治療を行った.レーザー開始月齢,照射回数,面積(x < 2 cm2,2 ≤ x < 4 cm2,4 cm2 < x),出生時状況(妊娠週数,出生時体重)とした.妊娠37週以下の早産で2,500 g以下の低出生体重児を示す未熟児と,正期産で低出生体重児である児とは区別した.統計学的処理は,単変量およびロジスティック回帰分析による多変量解析で行い,p値が0.05未満を有意差ありとした.統計ソフトはBellCurve for Excelを使用した.なお本臨床研究は東京女子医科大学倫理委員会の承認を得て行った(承認番号4309).

4.  結果

合併症は,28例(18%)に認め,萎縮性瘢痕が21例(14%),色素沈着が7例(4%)であった(Table 1).色素脱失単独例は認めず,縮緬状の皮膚に色素脱失が伴った場合は萎縮性瘢痕例とした(Fig.1).男女比は1:3.5であった(Table 2).部位別,治療評価については別記の通りである(Table 2).

Table 1  Complications of laser treatment
合併症 28/152 (18%)
萎縮性瘢痕 21/152 (14%)
色素沈着 7/152 (4%)
Fig.1 

An upper arm of 3-year-old female.

Texture changes with hypopigmentation after laser treatment.

Table 2  Demographics data and therapeutic evaluation (n = 152)
n = 152
性別
 男/女 34/118
部位
 頭頚部 66(43%)
 体幹 45(30%)
 四肢 41(27%)
治療評価
 著効 117(77%)
 有効 20(13%)
 やや有効 15(10%)
 無効 0(0%)

152例中,妊娠週数,出産時体重が判別したのは96例で,合併症に影響する可能性のある性別,部位,形状,面積,治療後の潰瘍形成,照射回数,レーザー照射開始月齢,未熟児または正期産児に対し,96例で単変量解析を行い,面積4 cm2以上,治療後の潰瘍形成あり,照射回数6回以上,未熟児の4項目が,p < 0.05で予測因子として考えられた(Table 3).これらを交絡変数としてロジスティック回帰分析を行うと,面積4 cm2以上,照射回数6回以上,未熟児の3項目で有意差を認めた(Table 4).

Table 3  Demographics data and complications of laser treatment (n = 96)
症例数(n = 96) 合併症数(n = 20) p Value
性別a)
 男/女 20/76 3(15%)/17(22%) 0.470
部位a)
 頭頚部 45 9(20%) 0.850
 体幹 27 7(26%) 0.442
 四肢 24 4(17%) 0.562
形状b)
 局面型 92 18(20%) 0.191
 腫瘤型 3 2(67%) 0.109
 皮下型 1 0(0%) 1
大きさa)
 x < 2 cm2 33 4(12%) 0.128
 2 ≤ x < 4 cm2 25 3(12%) 0.206
 4 cm2 ≤ x 38 13(34%) 0.009*
潰瘍形成b)
 有/無 7/89 4(57%)/16(18%) 0.033*
照射回数a)
 1~5回/6回以上 52/44 6(11%)/14(32%) 0.015*
開始月齢
 3カ月以下a) 53 14(26%) 0.135
 4~6カ月a) 30 5(17%) 0.498
 7~11カ月b) 7 0(0%) 0.339
 12カ月以上b) 6 1(17%) 1
未熟児/正期産児b) 13/83 6(46%)/14(17%) 0.026*

a) Chi-square b) Fischer’s exact test * p < 0.05

96 patients whose number of weeks of pregnancy and born body weight are turned out.

Table 4  Result of multivariate logistic regression analyses
Odds比 95%信頼区間 p Value
下限値 上限値
4 cm以上 3.933 1.147 13.488 0.029*
潰瘍あり 2.717 0.393 18.798 0.311
6回以上 4.150 1.257 13.703 0.020*
未熟児 7.245 1.517 34.606 0.013*

* p < 0.05

5.  考察

乳児血管腫は,乳児に発生する腫瘍では最も頻度が高いとされる.発生頻度に人種差が存在し,1歳の白人では2~12%に存在するが,日本人では0.8~1.7%とされ,発症率の男女比は1:3と女児に多い2).当院の結果でも男女比は1:3.5と女児に多い傾向であった.乳児血管腫の絶対数が男児よりも女児が多い事実があることや,親は男児よりも女児の外観を気にする傾向があるので,レーザー治療を希望し,受診する機会が多いことが考えられる.

Finnら3)によると,発生部位は頭頚部60%,体幹25%,四肢15%と頭頚部に多い傾向がある.当院でも頭頚部43%,体幹30%,四肢27%と比較的頭頚部に多い傾向であった(Table 3).体幹四肢に比べて見える部位であることはレーザー外来を受診する一因とも思われる.

照射終了後の合併症として,萎縮性瘢痕,色素沈着,色素脱失がある.かつて,Battaら4)は,乳児血管腫に対する色素レーザーを照射した症例に関して,対照群と比較すると,色素レーザー照射群のSkin atrophyや色素脱失の合併症が有意に高かったと報告した.これに対し,Konoら5)は,Battaらの報告は冷却装置を有していない色素レーザーを使用したためであり,冷却装置付きのロングパルス色素レーザーを使用した場合,乳児血管腫がより速やかに退縮し,また,合併症に関しても有意に少なかったと述べている.ロングパルス色素レーザーを使用した群では26例中,Excellentが17例,Moderateが7例,Mildが2例,None or worseが0例であった.設定はスポットサイズ7 mm,パルス幅10~20 msec,出力9~15 J/cm2,皮膚冷却装置(DCD)40/20 msecであった.当科での152例では,血管腫の色調と隆起に着目し,ほぼ完全に消退している例を「著効」,改善は認めるが色調や隆起が軽度残存している例を「有効」,改善は認めるが色調や隆起が残存している例を「やや有効」,改善がない例を「無効」として4段階で評価した.

著効の症例は117例,有効の症例は20例,やや有効の症例は15例,無効の症例は0例であった(Table 2).

今までに,レーザー照射による合併症の種類に関する論文4,5)はあるものの,合併症の発症因子に関する報告はほとんど見当たらない.今回の統計学的検討で,合併症の発症因子として,有意差があったものは,面積4 cm2以上,照射回数6回以上,未熟児の3項目であった.乳児血管腫は生後2週間以降に病変が明らかとなり,急速に増大し(増殖期),徐々に縮小していき(消退期),消失に向かう(消失期)という経過をたどる2)ため,いまだwait and see policyでレーザー外来受診が遅れ,腫瘤が大きくなってから受診する場合も少なくない.合併症を回避するには,増大する前のまだ面積が小さく,紅斑の状態での可及的早期のレーザー照射が必要と言われている6).面積が4 cm2以上で有意差があったことから,増殖期で,まだ面積が4 cm2未満の状態でレーザー照射をすると早期に消退し,合併症が防げると考えられる.照射回数に関しては,中田ら7)によると,血管腫の増大傾向が止まるまでレーザー照射を行い,1歳経過時点での照射回数は第一世代パルス色素レーザー(PDL)群が6.2 ± 1.8回,第二世代ロングパルス色素レーザー(LPDL)I群(VbeamTM)が5.9 ± 1.8回,第二世代ロングパルス色素レーザー(LPDL)II群(Vbeam PerfectaTM)が5.2 ± 2.1回であり,LPDL II群はPDLと比較し有意に照射回数が減少した.また合併症に関してもLPDL I群,LPDL II群共にPDL群より有意に減少したと報告している.今回,照射回数が6回以上で合併症に有意差を認めた.クーリングデバイスの有無ももちろんあるが,中田らの報告からも,照射回数が少ない方が合併症も少ないと述べている.

未熟児に関しては,正期産児に比べて更に皮膚が薄く,数日で容易に隆起し,もともとの合併症の治療が優先するため,レーザー治療が遅れる.合併症回避のためには,照射方法や設定の工夫が今後の課題である.

また,最近のトピックとして,プロプラノロールとロングパルス色素レーザーの併用によりレーザー単独よりも早期に著しく乳児血管腫が縮小したという報告がある8).製品化されたヘマンジオル®シロップが保険適応になり,当院でもレーザーとの併用療法により合併症の減少に努めている.今後はプロプラノロールとロングパルス色素レーザーの併用症例に対する合併症についても検討を行っていきたい.

6.  結論

乳児血管腫に対するレーザー治療の合併症発症因子として,面積4 cm2以上,照射回数6回以上,未熟児の3項目に有意差を認めた.男女比,発生部位は従来と同じような結果となった.プロプラノロール内服とレーザー治療の併用による治療効果と合併症の減少も期待され,今後更なる統計学的検討が必要である.

利益相反の開示

開示すべき利益相反はなし.

謝辞

統計に関し御助言いただいた東京女子医大形成外科,八巻隆先生にはこの場をお借りして深謝いたします.

引用文献
 
© 2019 特定非営利活動法人 日本レーザー医学会
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