日本レーザー医学会誌
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症例報告
美容外科施設でNd:YAGレーザー治療の練習中に黄斑円孔を生じた1例
尾花 明
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2019 年 40 巻 2 号 p. 114-118

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Abstract

38歳女性看護師がNd:YAGレーザーによるレーザートーニングの練習をしていた.クリアファイルに挟んだトレーニング用紙にレーザー照射を行っていたところ,反射光が右眼に入り黄斑円孔を生じた.保護眼鏡は装用していなかった.硝子体手術によって円孔は閉鎖したが,視力は0.01に低下した.

Translated Abstract

A 38 year-old female nurse was training for laser toning by Nd:YAG laser. Accidental macular hole occurred in her right eye when she was exposing laser light on the training paper contained in a clear plastic file. She didn’t wear protective goggles. Macular hole was closed by vitrectomy, but the visual acuity of her right eye deteriorated to 0.01.

1.  症例

症例:38歳女性看護師

主訴:右眼視力低下

現病歴:2017年5月1日に浜松市内の美容外科・形成外科・皮膚科を標榜するクリニックに入職し,5月15日にしみとりのためのレーザートーニング治療の練習を行った.練習はQスイッチNd:YAGレーザー(MedLite C6,(株)ジェイメック,東京)を使用し,グレーのレーザートーニングトレーニング専用用紙(Fig.1)を透明クリアファイルに挟み,ファイルの上からハンドピースをあてて照射した.同一部位を重ねて照射すると皮膚に副作用を生じるため,重ならないように横方向に照射する練習をしていたところ,5パス目に突然,右眼にまぶしさを感じ,直後から黒いもやがかかって見えなくなった.受傷時は波長1,064 nm,出力2.7 mJ/cm2で照射していた.なお,この練習中,保護眼鏡は装用していなかった.練習は指導看護師のもとに行っていた.本人が指導者に保護眼鏡装用の必要性を尋ねたが,指導者から装用の必要はないといわれ装用しなかった.

Fig.1 

A training sheet of laser toning. a. Before use. b. An example for idealistic exposures showed on the manual by JMEC Co., LTD.

同日,近隣眼科を受診したところ,レーザーによる網膜出血にて回復は不可能との診断を受けた(Fig.2).1週間程度様子をみたが視力が回復しないため,6月2日に当科を受診した.

Fig.2 

Fundus photograph of the right eye on the day of injury. An oval opacity with a whitish ring on the fovea and vitreous hemorrhage are noted. (offered from a previous doctor)

既往歴:特になし.眼疾患や視力低下の既往もなし.

初診時所見:視力は右0.03(矯正不能),左1.2で,眼圧は右16 mmHg,左16 mmHgであった.前眼部および中間透光体に異常を認めなかった.右眼眼底には外傷性黄斑円孔と少量の硝子体出血がみられた(Fig.3).円孔底の網膜色素上皮の色調は異常で,光干渉断層計(OCT)では網膜色素上皮細胞とブルッフ膜の不整,脈絡膜の高反射がみられた.すなわち円孔底の網膜色素上皮細胞と脈絡膜は傷害されて瘢痕が形成されつつあった.OCTで円孔サイズを計測すると,網膜最深部で横径744 μm,縦径561 μmであった.網膜周辺部には異常を認めなかった.左眼眼底に異常を認めなかった.視野検査では中心暗点を認めた(Fig.4a).

Fig.3 

a. Fundus photograph of the right eye eighteen days after the injury. Note the oval lesion with irregular pigmentation and surrounding reddish color change. b. Optical coherent tomography of the cross section at the fovea. The retina breaks at the fovea and macular hole is formed. Cyst is noted in the retina at the margin of macular hole (arrow). The retinal pigment epithelium and Bruch’s membrane at the bottom of macular hole are irregular (arrow head). Dotted particles in the vitreous cavity are vitreous hemorrhage (double arrows).

Fig.4 

Goldmann perimetry of the right eye. a. Eighteen days after the injury. A central scotoma is noted. b. One month after the second operation (i.e., six months after the injury). A central scotoma enlarges and merges to Mariotte blind spot.

治療経過:患者の希望に添い,6月15日右眼の25Gシステムによる水晶体温存硝子体切除手術を行った.手術は型どおり硝子体ゲルを周辺まで切除した後,円孔周囲の内境界膜を剥離し,一部の内境界膜を翻転して円孔に被せた.液-空気置換を行い,術後は日中のうつ向きと夜間のうつ伏せ体位を3日間継続した.内境界膜剥離には染色剤は使用せず,トリアムシノロン懸濁液を使用した.術4日後,円孔は不完全閉鎖となり,視細胞は欠損していた.Fig.5は手術3ヵ月後の眼底写真で,円孔は不完全閉塞のままで,視力は0.01であった.円孔の完全閉塞を目指して,10月5日に2回目の硝子体手術を施行した.手術は内境界膜の自家移植を計画していたが,初回手術時に円孔周囲に残した内境界膜は円孔を覆うのに十分な大きさであることが確認できたので,残っていた内境界膜を伸ばして円孔全体を覆うように被せ,液-空気置換を施行した.術後は3日間のうつぶせ体位とした.手術1ヵ月後に円孔閉鎖状態は術前より改善したが(Fig.6),視力は0.02にとどまった.また,このときの視野は暗点が受傷直後よりも拡大していた(Fig.4b).2018年5月には,黄斑円孔は閉鎖しているものの,中心窩の色素上皮細胞層から脈絡膜に瘢痕組織があり,中心窩の視細胞は消失したままで,視力は0.01であった.患者には,これ以上の視力回復は困難なことを説明し,経過観察となった.

Fig.5 

a. Funus photograph of the right eye three months after the first operation. An oval scar tissue is observed at the fovea. The signs of dissociated optic nerve fiber layer (DONFL) are noted in the lesion coincided with the internal limiting membrane removal. Dark colored lesion between optic nerve head and the fovea (surrounded by arrows) indicates an atrophy of nerve fiber bundles. b. Optical coherent tomography of the cross section at the fovea. The macular hole is barely closed, but photoreceptors are lost. An arrow indicates inverted inner limiting membrane.

Fig.6 

a. Fundus photograph of the right eye one month after the second operation. Shape of the scar tissue at the fovea is irregular. An atrophy of nerve fiber bundles between optic nerve head and the fovea is noted (surrounded by arrows). b. Optical coherent tomography of the cross section at the fovea. The macular hole is closed. An arrow indicates inverted inner limiting membrane.

2.  考察

光が眼に及ぼす作用は,光の波長,出力,照射時間の違いによって,熱作用,光化学作用,物理的作用のいずれかとなる.組織の障害形態は,熱作用では凝固,光化学反応では変性,物理的作用では損傷となる1)

工業製品の生産現場や研究室でのレーザー使用,日常生活でのレーザーポインター,Light Emission Diode(LED)の使用拡大に伴って,レーザー光やLEDによる眼障害例が報告されている2).その中でもQスイッチNd:YAGレーザーによる事故例は多く3),これは使用頻度が高いこと,波長1,064 nmが不可視であること,出力が高いことなどによると思われる.事故例の多くは,生産現場や研究室での光軸調整の際に適切な保護眼鏡を装用せずにレーザービームを直視したことによるが4),ガラス板,実験観察窓,金属などからの反射光による場合も報告されている3)

通常,事故はレーザービームの直視によって生じるので,障害は網膜の中央部分,すなわち黄斑に生じる.高出力のパルス光が黄斑に照射されることで,網膜や脈絡膜毛細血管が物理的作用による損傷を受け,受傷直後には網膜出血,網膜下出血,脈絡膜出血を生じる.出血は徐々に硝子体中に広がり硝子体出血となる.受傷後早期は出血に覆われるため網膜の損傷状況は通常不明だが,1週間程度で出血が減少すると観察可能になる.軽度なら網膜の一部損傷にとどまるが,程度が強ければ網膜全層が損傷され黄斑円孔が形成される.時間経過とともに,破壊された網膜・脈絡膜の瘢痕形成や5),網膜表面に黄斑パッカーが形成される6).黄斑円孔はサイズが小さい場合は自然閉鎖することもあるが7),サイズが大きければ自然閉鎖は起こりにくい.この点は眼球打撲による黄斑円孔と異なるように思われる.眼球打撲は,外力が黄斑に集中したために網膜が裂けることによって黄斑円孔ができるが,高出力のNd:YAGレーザーでは組織がバラバラになって欠損する.黄斑円孔の閉塞は,円孔周囲に残存するMüller cell coneのミュラー細胞が増殖することで完成されると考えられるが,Nd:YAGレーザーでMüller cell coneも含めて組織が欠損すれば,ミュラー細胞の増殖による円孔閉鎖は期待しにくい.これは硝子体手術による円孔閉鎖の成否にも当てはまる.特発性黄斑円孔の硝子体手術成績は良好で8),内境界膜剥離を行った場合の円孔閉鎖率は100%に近い.しかし,円孔サイズが大きいものや陳旧例は閉鎖率が低い.これは,ミュラー細胞が円孔部を物理的に埋められないほど円孔が大きいことと,陳旧例ではミュラー細胞の変性により増殖力が低下しているためと思われる.本例も,円孔サイズがやや大きく,受傷時にMüller cell coneも損傷されていたことが,手術による円孔完全閉鎖の得られなかった理由と推測された.難治例の黄斑円孔手術には内境界膜翻転法が行われ,円孔閉鎖率向上が報告されている9).本例も初回手術で内境界膜翻転法を施行したが不完全閉鎖に終わったため,2回目の手術では内境界膜をより広く円孔に被せたところ,円孔の閉鎖状態は改善した.しかし,視力的には改善を得なかった.視力が不良であった最大の要因は,受傷時に網膜色素上皮細胞と脈絡膜が損傷を受け,時間とともに瘢痕形成に至ったためと考えた.2回目手術の1ヵ月後の視野検査で暗点が拡大した理由については,瘢痕組織周囲の網膜脈絡膜萎縮の拡大によると思われ,これは黄斑部のレーザー光凝固斑が長期経過とともに拡大すること(atrophic creep10))と同様の機序によるのではないかと考えた.

本例は,治療練習にレーザートーニングトレーニング専用用紙をクリアファイルに挟んで,その上からレーザー照射を行っていた.クリアファイルは光反射率が高く危険である.本装置の販売会社もその危険性を認識し,2015年1月にトレーニング方法のマニュアルを改定している.現在の同社の推奨方法は,トーニングトレーニング専用用紙をクリアファイルに挟み,それをトレーシング紙でできた封筒に入れ,その上からレーザーを照射するというものである.同社の測定では,トレーシング紙上から照射した場合はクリアファイルに直接照射する場合より,反射光強度は照射面から10 cmの距離で1/55,30 cmの距離で1/480程度に低下するとのことである.なお,マニュアルでは練習および実際の患者に施術をする場合も,術者の保護眼鏡装用の徹底を求めているが,本例では保護眼鏡を装用していなかった.しかも,問題なのは,患者本人が眼鏡装用の必要性を指導者に確認しているにも関わらず,指導者がその必要はないと答えた点である.また,販売会社のマニュアルでは練習の際には出力0.8 mJ/cm2程度で行うように記載されているが,本例では2.7 mJ/cm2と3倍以上の高出力で行うように指導されたとのことである.患者の話によると,この施設では,実際に患者に施術をする際にも,職員は保護眼鏡を装用していなかったとのことで,それが事実なら施設長の管理責任に重大な瑕疵があると考える.今後,このような不幸な事例が発生しないように,医療者のレーザー安全に関する意識改善が必要である.

引用文献
 
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