日本レーザー医学会誌
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原著
悪性中枢気道狭窄に対するタラポルフィンナトリウムを用いた光線力学的治療における治療条件に関する検討
土田 敬明
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2022 年 43 巻 1 号 p. 9-12

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Abstract

光線力学的治療(Photodynamic therapy: PDT)は悪性中枢気道狭窄の治療における有効性と安全性が示されているが,タラポルフィンPDTの治療条件は明確でない.そこで,悪性中枢気道狭窄症に対してタラポルフィンPDTを行った症例を検討した.17病変に50~150 J/cm2の照射量でPDTが行われた.50 J/cm2以外の全例で気道狭窄の改善が認められた.タラポルフィンを用いた100 J/cm2の照射量によるPDTは,中枢気道の悪性狭窄に対して実現可能な方法である.

Translated Abstract

Photodynamic therapy (PDT) has been shown to be effective and safe in the treatment of malignant central airway stenosis, however the treatment conditions for talaporfin PDT are not clear. In this study, we review cases where talaporfin PDT was used to treat malignant central airway stenosis. A total of 17 lesions were treated with talaporfin PDT at doses of 50-150 J/cm2. Improvement of airway stenosis was observed in all cases except one lesion treated with a dose of 50 J/cm2. The results show that PDT with a 100 J/cm2 dose of talaporfin is a feasible treatment for malignant central airway stenosis.

1.  背景

中枢気道の狭窄は生命を脅かすものであり,特に気管・気管支内の悪性病変に対してはしばしば容量減少処置が推奨される1-5).これまでの報告では,光感受性物質としてポルフィマーナトリウムを用いた悪性中枢気道狭窄に対する光線力学的治療(Photodynamic therapy: PDT)の有効性と安全性が示されている6,7).わが国では,次世代の光感受性物質であるタラポルフィンナトリウムが保険適用となり,また,ポルフィマーナトリウムに対応するレーザー機器のメーカー対応が終了したことから,肺がんに対してはタラポルフィンナトリウムによるPDTが主流となっている.悪性中枢気道狭窄に対するタラポルフィンナトリウムを用いたPDTに対しても,化学療法との組み合わせにより有効であったとの報告がなされている8).また,小細胞がんによる中枢気道狭窄に対してもPDTが有効であったとの報告がなされている9).しかし,悪性中枢気道狭窄に対するタラポルフィンナトリウムを用いたPDTの治療条件についてはまだ明らかではない.

2.  目的

本研究では,悪性中枢気道狭窄に対してタラポルフィンナトリウムを用いたPDTを行った症例を後方視的に解析し,治療条件について早期肺がんに対するPDTで行われているレーザー照射条件に準ずる条件が妥当であるかの検討を行うことを目的とする.

3.  対象と方法

2011年1月1日から2017年12月31日までに当院で悪性中枢気道狭窄に対してタラポルフィンナトリウムを用いたPDTを行った全患者のカルテ情報から,前治療,光感受性物質の投与量,レーザー照射までの時間,レーザープローブの種類,レーザー照射量,治療効果(内視鏡像での狭窄解除,CT画像での狭窄解除及び自覚症状の改善),有害事象を収集した.収集した情報を解析したが,症例数が少ないため統計学的な解析には至らなかった.気道狭窄の度合いは,CT画像より推定された狭窄がない場合の気道内径に対する測定時の気道内径の比で算定した.狭窄解除の判定基準は,治療前の気道内径と治療後の気道内径の比を算定し,20%以上の内径の拡張を気道開口とした.気道開口または臨床症状(呼吸苦)の改善が認められたものを気道狭窄の改善と判定した.

本研究は,後方視的な非介入の観察研究であり,国立がん研究センター研究倫理審査委員会の承認(2018-090)を得て行われた.

4.  結果

本研究の結果をTable 1に示す.9例に対して17回のタラポルフィンナトリウムを用いたPDTを行った.1人あたりの平均治療回数は1.9回であった.タラポルフィンナトリウムの投与量は40 mg/m2で,光感受性物質の投与からレーザー照射までの時間は全例で5時間であった.レーザー照射量は,5病巣が150 J/cm2であったのに対し,11病巣が100 J/cm2,1病巣が50 J/cm2であった.レーザー照射量が50 J/cm2であった症例では,100 J/cm2のレーザー照射量での治療が計画されていたが,治療時の不穏が強く,50 J/cm2の照射にとどまった.側射型プローブによる照射では,狭窄部の腫瘍の厚みがCT等で5 mm以上と推定される部分についてはおおむね150 J/cm2での照射量とされていた.代表的なレーザー照射方法をFig.1に示す.末梢側には側射型プローブが用いられ,中枢端に対しては直射型プローブが用いられていた.光感受性物質の投与量は40 mg/m2,レーザー照射までの時間は4~6時間と,中心型早期肺がんに対するPDTに準拠して選択されていた.本研究の対象9例の治療アルゴリズムをFig.2に示す.7名の患者に対してPDT以前に放射線治療が行われていた.放射線治療が行われなかった2名のうち1名は間質性肺炎の合併により放射線治療が回避されていた.また,1名はポリープ状の発育をしており,スネア切除を優先して行ったのちPDTが施行された.一方,2名の患者には高周波焼灼,1名の患者にはアルゴンプラズマ凝固術が前治療として施行されていた.また,3名の患者でステントが挿入されており,1名の患者では腫瘍のスネア切除が行われていた.ステント挿入の3名は,全例でステント内に腫瘍進展をきたしており,ステント内腫瘍に対する治療としてPDTが行われた.レーザー照射量50 J/cm2の1病変を除き,ほぼ全例で気道狭窄の改善が認められた.レーザー照射量150 J/cm2と100 J/cm2では効果に大きな差はなかった.また,重篤な有害事象はなかった.1例で3回目のPDTの150日後に気管支瘻が発生したが,PDTによる治療部位とは異なっており,PDTによる有害事象は否定的であった.

Fig.1 

Typical procedure for Laser Irradiation.

A cylindrical type probe is used for the peripheral side of the airway stenosis and a linear type probe is used for the central side.

Fig.2 

Algorithm for the treatment of malignant airway stenosis (number of cases).

5.  考察

本研究では,悪性腫瘍による中枢気道の狭窄に対するPDTにおける治療条件の検討を行った.悪性腫瘍による中枢気道の狭窄に対しては,PDTの他,硬性内視鏡のブレードによるデバルキング,スネア切除,高周波・レーザーなどによる焼灼,ステントによる拡張,凍結療法,放射線治療,化学療法などが行われている10-12).Diaz-Jimenezらは,悪性腫瘍による中枢気道狭窄に対して,PDTとレーザー焼灼の有効性と安全性を比較した比較試験を行っている7).ランダム化された試験の結果,Nd:YAGレーザーによる焼灼に対して,ポルフィマーナトリウムによるPDTは再狭窄までの期間が有意に長く(50日対38日),生存期間の中央値も有意に長かった(265日対95日)と報告されている.ただし,この研究では,PDT群にステージの低いものが多かったために治療成績がよかったかもしれないとの考察もなされている.

レーザー照射に関しては,Kimuraらは12症例13か所の悪性気道狭窄に対して100 J/cm2のエネルギー密度でレーザー照射しており,良好な治療成績と安全性を報告している8).Suzukiらも,小細胞がんによる中枢気道狭窄に対して100 J/cm2のエネルギー密度でレーザー照射を行っており,良好治療効果であったと報告している9).いずれの報告でもタラポルフィンナトリウムの投与量は,40 mg/m2と報告されている.本研究でも,レーザーのエネルギー密度100 J/cm2でタラポルフィンナトリウムの投与量が40 mg/m2の場合の治療成績は良好であった.また,レーザーのエネルギー密度については,150 J/cm2と100 J/cm2で大きな差はなく,1例ではあるが50 J/cm2では治療効果が不十分であったことから,現時点では,悪性中枢気道狭窄に対するPDTでは,100 J/cm2のエネルギー密度でのレーザー照射が適当であると考えられる.

本研究は後方視的研究であり症例数も多くないため,この結果の解釈には制限がある.レーザーの照射条件やタラポルフィンナトリウムの投与量についても今後の知見により修正が必要になる余地がある.また,9例中7例でPDT以外の焼灼やステント,放射線治療などの物理的治療がなされており,全例で化学療法がおこなわれていた.このため,PDT単独での評価は困難である.しかし,PDTが他治療と併用が可能であることはある程度示すことができている.Moghissiらは,Nd:YAGレーザーによる焼灼に引き続いてPDTを行い全例で部分緩解以上の効果を認めたと報告しており13),PDTが焼灼療法と親和性があることを支持している.

中枢気道狭窄は進行すると呼吸困難による苦痛が強く,緩和医療的見地から容量減少処置が推奨されてる1-5).本治療法は,低侵襲な治療法であり,悪性腫瘍による中枢気道狭窄に対する緩和治療として期待される.

6.  結論

悪性中枢気道狭窄に対するタラポルフィンナトリウムによるPDTでは,早期肺がんの場合と同様にタラポルフィリンナトリウムの投与量40 mg/m2,投与からレーザー照射までの時間4~6時間,レーザーのエネルギー密度100 J/cm2で,腫瘍の形状により直射型プローブと側射型プローブを使い分ける方法が現時点では妥当である.しかし,エビデンスは強くなく,今後の症例集積でさらに妥当な治療条件が示される余地はある.

利益相反の開示

利益相反なし.

引用文献
 
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