The Journal of Japan Society for Laser Surgery and Medicine
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REVIEW ARTICLE
Timing of Propranolol Treatment for Infantile Hemangioma
Masatoshi Jinnin
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2023 Volume 43 Issue 4 Pages 275-278

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Abstract

本邦でも乳児血管腫に対してプロプラノロールが使用可能となり,それまで治療に難渋してきた生命や機能を脅かす病変,多発・広範囲の病変,増殖が急激な病変,皮下型の病変,潰瘍を形成する病変などに対する治療選択肢が広がった.一方,生後5.5~7.5週でもっとも急速に増大し,5ヶ月までにピーク時の80%の大きさに達するとされる本腫瘍に対し,プロプラノロール治療介入のタイミングに関してはいまだ臨床現場において完全には意見が定まっていない.

本稿では乳児血管腫に対するプロプラノロール治療の考え方とそのタイミングについて,最新の議論を紹介したい.

Translated Abstract

With the availability of propranolol for infantile hemangioma in Japan, treatment options have been expanded for intractable cases including life- and function-threatening lesions, multiple and widespread lesions, rapidly growing lesions, subcutaneous lesions, and ulcerated lesions. On the other hand, the timing of propranolol intervention for this tumor, which grows most rapidly between 5.5 and 7.5 weeks of age and reaches 80% of its peak size by 5 months of age, is still controversial in clinical practice.

In this article, I would like to introduce the current debate on the concept and timing of propranolol therapy for infantile hemangioma.

1.  はじめに

本邦でも乳児血管腫に対してプロプラノロールが使用可能となり,それまで治療に難渋してきた生命や機能を脅かす病変,多発性・広範囲の病変,増殖が急激な病変,皮下型の病変,あるいは潰瘍を形成する病変などに対する治療選択肢が広がった.一方,生後5.5~7.5週でもっとも急速に増大し,5ヶ月までにピーク時の80%の大きさに達するとされる本腫瘍に対し,治療介入のタイミングに関してはいまだ臨床現場において完全には意見が定まっていないと思われる1,2).また,近年はレーザーとの使い分けや併用療法についても注目されているが,診療ガイドラインなどにも明記されておらず,これらを用いた治療戦略には様々な意見が存在する.

本稿では乳児血管腫に対するプロプラノロール治療の考え方とそのタイミングという難しいテーマについて,最新の議論を紹介したい.

2.  乳児血管腫とは

乳児血管腫は血管内皮細胞の増殖を本態とする良性の脈管性腫瘍であり,他の血管病変と異なる非常に特異的な臨床像として,特徴的な3つの経過をたどる.すなわち,出生時にはあまり目立たないが生後しばらくして出現して数ヶ月間増大し(増殖期),その後自然退縮傾向をみせる(消退期).2点重要なこととして,

・増殖期では,特に生後5.5~7.5週の間に急速に増大し,5ヶ月までにピーク時の80%の大きさに達する1,2)

・現在でも臨床の現場で「小さなイチゴ状血管腫は自然に消えるからそのまま経過観察で良い」との説明が保護者になされることがあるが,医療者側にそのつもりはなくとも,保護者は完全な消退を期待してしまう.一方,例えば隆起の強い病変は後述のような後遺症を残すため,その認識の違いがしばしばトラブルにつながってきた.

その乳児血管腫の後遺症として,線維脂肪組織,瘢痕,皮膚萎縮,あるいは毛細血管拡張などが知られている.その頻度は文献により異なり25%から直近のものでは92.9%と幅がある3-5)が,いずれにせよ想像以上に多いことが伺える.

3.  プロプラノール療法

血管腫・血管奇形・リンパ管奇形診療ガイドライン2017においてプロプラノール内服は,「慎重な観察の下に投与されるのであれば,乳児血管腫に対し第1選択となる可能性のある薬剤である」との推奨文で乳児血管腫に対して唯一,推奨度1・エビデンスレベルAの治療と位置付けられている6)

一方,小児患者におけるプロプラノロールの有害事象として低血圧や徐脈のほか低血糖を起こすリスクがあることや,投与前後の哺乳の必要性などが記載されており,リスクとベネフィットを考慮すると全ての乳児血管腫症例に投与が必要という薬剤ではなく,いつ・どのような症例に対し投与が必要かということについて,これまで活発な議論がなされてきた.

適応症例に関して,皮膚科,小児科,形成外科などのエキスパートの意見を総合して作成されヘマンジオル®発売当初から使用されている適正使用ガイドにおいては,治療介入の適応がある症例の中からヘマンジオル®投与の適応がある症例をピックアップしている7).まず「治療が強く推奨される乳児血管腫」として生命や機能を脅かす合併症を伴う乳児血管腫,例えば気道の病変で生命を脅かしたり眼周囲で機能障害をきたす合併症を伴うような症例が挙げられている.また,潰瘍を伴う乳児血管腫は感染や瘢痕形成の可能性,そして顔面の広範な乳児血管腫は未治療の場合整容面で問題を残す可能性がありやはり絶対適応となる.「場合によって治療が必要な乳児血管腫」,つまり相対適応として,腫瘤型乳児血管腫は局面型に比べると皮膚のたるみが残りやすいこともあり対象となる.また,手や腕など露出部の乳児血管腫も,顔面ほどではないものの整容的に問題になり得るため,保護者が強く希望する場合にもやはり治療の相対適応となる.一方,瘢痕が残っても気にならない部位や大きさの乳児血管腫,さらには明らかに退縮期に移行した病変は「経過観察でよい乳児血管腫」にあたる.

そして,投与のタイミングについては3つの議論が存在すると思われる.それぞれについて臨床現場でも意見が定まっておらず,上記のガイドラインでも明記されていない中で,現在の議論のポイントを紹介する.

・Q1.いつ投与を開始するか?

プロプラノロール投与のタイミングを整容面と機能面で分けて考えると,生後6ヶ月以内に投与した方がexcellent response,つまり90%以上の改善を示す割合はやはり得られやすいというPamらによる206例の研究結果がある8).増大しきった病変を消失させるのは当然難しく,整容面では皮膚が腫瘍によって引き伸ばされて不可逆的なたるみや瘢痕が生じるより早期に治療を開始する必要があるという考え方はコンセンサスを得ていると思われる.しばしば保護者から,「しばらく待って小さくならなかったら治療するというのでは駄目でしょうか」との質問を受けるが,それはやはりお勧めできない場合が多い.

そのため,最近公開されたヘマンジオル®のエキスパートガイドでも短期間で再受診させ状態を確認し,本薬剤導入のタイミングを逃さないことの重要性が指摘されている9).受診間隔について具体的には,増殖のカーブが急になる生後1~3ヶ月頃は乳児血管腫が急増大するリスクが高いため,可能であれば1週ごと,最低でも2週に1度は再受診するよう保護者を指導し,増殖傾向がないか確認するのが望ましいとされている.実際にはそのような頻回の受診は困難なことも多いが,予約は例えば1ヶ月後になったとしても,急に大きくなった際には早めに受診するように指導しておくのも一つの方法である.

一方,機能面について,生命や機能を脅かしうる病変ではヘマンジオル®の投与を急ぎたいケースがあるが,臨床試験の対象患者が生後5週間から5ヶ月が対象であったため,欧米では出生後5週未満の症例には適応外であり,早期投与の安全性や有効性については十分なエビデンスがない.幸い,本邦では出生後5週未満の症例では慎重投与となっているため,それだけに逆に生後5週まで投与を待つかどうか悩むというケースもあると思われる.

そのような場合,例えばやむをえない事情のため5週未満でプロプラノロールを投与されたEl Hachemらの15例の検討では副作用なく,一方で十分な有効性を認めている10).機能面の問題などでどうしても必要という場合には5週未満でも投与自体は可能だと考える.ただその場合,欧州のガイドラインでは入院での導入や少量からの投与開始,さらには慎重なモニタリングが推奨されている11)

・Q2.いつまで投与を開始していいのか?

欧米では生後5ヶ月以降の患者もヘマンジオル®の適応外となるが,本邦では幸い投与の制限がない.ただ,前述の適正使用ガイドでは,「明らかに退縮期に移行した症例」は経過観察が推奨されており,基本的には投与の対象となっていない.

一方,「明らかに」という文言に反映されているように,退縮期に入った病変であっても退縮が遅くて困る,あるいはより速やかな退縮が望ましいという症例は実臨床では存在し,おそらく機能的な問題があることは少なく整容的で主観的な問題がメインであろうと思われるが,そのような例でも投与を検討することは可能である.ただ,当然のことながら他に治療がない場合,あるいはメリットとデメリットを比較してメリットが勝るという症例に限るという縛りは存在すべきであろう.実際,症例報告レベルでは6~7歳の退縮期の症例でも治療効果があったという例が存在する12,13).ただ,前述のPamらやEl Hachemらの検討では,生後5~6ヶ月以降の投与開始例に対する有効性はやや低い印象がある8,10).その理由としては,プロプラノロールが増殖のより強い時期に最大の効果を発揮している可能性,さらにはやはり一度引き伸ばされたりダメージを受けてから時間がたった皮膚を復元する作用には乏しいなどの理由が想定される.また,安全性については5ヶ月以降の投与例に特異的な副作用は記載されていないが,後述のように月齢とともに低血糖には十分注意する必要がある.

Q3.いつまで投与を継続していいのか

ヘマンジオル®の投与中止のタイミングについても議論が多かったが,エキスパートガイドではその目安が記載されるようになった.

ヘマンジオル®投与中に月齢が6ヶ月に至った頃,離乳食の開始が一つのターニングポイントになる.すなわち離乳食が始まると保護者と同じタイミングで食事を取ることになり,夕食後の夜間に血糖値が下がりやすく空腹時投与をしがちになるため,低血糖の頻度が高まる傾向がある.そのため,空腹時間が長くならないよう夜間に哺乳するなどの対策を指導する.さらには投与継続の必要性を検討し,一定の効果が得られている状態で前回来院時に比べて治療効果がみられなくなった場合,投与開始から6ヶ月未満でも治療の終了を検討することが勧められている.あるいは治療効果が継続的にみられるときは,保護者には低血糖のリスクについてあらためて十分に指導し,慣れからくる不適切な使用を未然に防ぐ.

一方,アメリカ小児科学会のガイドラインでは,プロプラノロール内服療法について,(1)3ヶ月間よりも6ヶ月間の治療の方が有効性が高い,(2)6ヶ月間の治療でも中止後に10~25%に再増大が見られる,といった知見から,4~12週間のfull doseの投与と,その後減量しながらの9~12ヶ月の継続が提言されている14).そのため,これもまだ定見が得られていないクリニカルクエスチョンであるといえる.

4.  最後に

本稿の前提となる重要なポイントとして,前述のように治療効果を最大限に発揮させるには,皮膚が腫瘍によって引き伸ばされ不可逆的なたるみや瘢痕が生じるより早期に治療を開始する必要があり,治療介入する場合は早い方が有効性が高い,というのはコンセンサスを得られている考え方だと思われる.そのため,できるだけ早期からの診断と治療適応の判断が重要になり,本邦では乳児血管腫のうちどのような症例を専門機関に紹介すべきなのかの目安が作成されてインターネットで公開されている15).一方海外のデータでは,残念ながら診断される平均の月例は生後4ヶ月であり,すでに病変の増大が進み過ぎているため,現在は生後1ヶ月までに診断とリスクの評価を行うのが目標となっている14)

その上で,上記のように,①生後5週未満でもプロプラノロールを投与すべき症例,②5ヶ月後(退縮期)より後でも投与すべき症例,そして③プロプラノロール内服の中止時期,というクリニカルクエスチョンが臨床家の間で多くあげられている状況に対して,今後本邦の診療ガイドラインでもなんらかの提言がなされていく予定であるし,また更なる症例とデータの集積が必要となっている.

利益相反の開示

利益相反あり.マルホ株式会社より奨学寄付,講演料

引用文献
 
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