The Journal of Japan Society for Laser Surgery and Medicine
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REVIEW ARTICLE
A New Animal Model for Hearing Loss and Tinnitus Utilized by Laser Technology
Kunio Mizutari
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2023 Volume 43 Issue 4 Pages 231-236

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Abstract

爆傷による被害は,近年地域紛争の増加にともない戦場における兵士の受傷(イラク,シリアなど)が問題となっているだけでなく,小型爆弾を用いたテロリズムに増加(ボストン,マドリードなど)により一般市民にも影響が及んでいる.爆傷による衝撃波の影響は全身に及ぶが,特に空気と接する組織である耳は最も高頻度に障害を受ける臓器である.特に,軽症の頭部外傷にもかかわらず様々な症状(耳鳴・難聴・不眠・不安・鬱など)を呈する患者が多数報告されており問題となっているが,その病態はほとんど明らかになっていない.そこで我々は,レーザーにより誘起した衝撃波を内耳へ照射することで,爆傷による内耳障害を再現するラットモデルを作成し,その病態解明を行ってきた.本モデルは,他の爆薬や圧縮空気を用いた爆傷モデルと比べて,その再現性・安全性・簡便性において優れ,また鼓膜穿孔が起こらないため内耳障害特異的な評価が可能である.その結果,爆傷による内耳障害はエネルギー依存性に強くなることが明らかとなった.特に,聴毛の形態異常が生じるエネルギーが負荷されると,有毛細胞脱落がなくとも聴力域値上昇が生じ,感音難聴を呈することが明らかとなった.一方で,シナプスリボンやらせん神経節に減少がみられる程度のエネルギーでは,一過性の聴力域値上昇を認めるのみであった.このような一過性域値上昇は臨床においても爆傷受傷後にしばしばみられるが,このような症例では耳鳴が残存することが多いことが知られている.このような軽度の聴覚障害に伴う耳鳴は,本研究でみられるようなシナプスリボンやらせん神経節の減少によって引き起こされる,いわゆるhidden hearing lossが関わっていることが強く示唆された.

Translated Abstract

Sensorineural hearing loss caused by a shock wave is the most critical etiology relating to blast-induced hearing loss. We have already established small animal models of blast-induced traumatic brain injury and lung injury that are induced by laser-induced shock-waves (LISWs). The use of LISWs has many advantages to mimic traumatic injuries for organs, e.g., highly controllable shock wave energy, site-selectivity and reproducibility. We, herein, present a novel hearing loss model based on LISWs to replicate a blast-induced hearing loss. Our results indicate that threshold elevation of the auditory brainstem response (ABR) after blast exposure was primarily caused by outer hair cell dysfunction induced by stereociliary bundle disruption. The bundle disruption pattern was unique; disturbed stereocilia were mostly observed in the outermost row, whereas those in the inner and middle rows stereocilia remained intact. In addition, The ABR examination showed a reduction in wave I amplitude without elevation of the threshold in the lower energy exposure group. This phenomenon was caused by loss of the synaptic ribbon. This type of hearing dysfunction has recently been described as hidden hearing loss caused by cochlear neuropathy, which is associated with tinnitus or hyperacusis.

1.  爆傷と聴覚障害

爆傷による被害は,近年地域紛争の増加にともない戦場における兵士の受傷(イラク,シリアなど)が戦傷医学の分野で深刻な問題となっている1)だけでなく,小型爆弾を用いた市街地でのテロも頻発しており,一般市民にも重大な影響が及んでいる2,3).爆傷による衝撃波の影響は全身に及ぶが,特に圧変化を直接受容しうる外気と接する組織である耳は最も高頻度に障害を受ける臓器である4).例えば,2013年に起こったボストンマラソン爆弾テロ事件では,追跡調査により感音難聴が受傷者の80%と非常に高い頻度で生じたことが判明している5).また,外見上軽度の受傷に見えるにもかかわらず様々な症状(耳鳴・難聴・不眠・不安・鬱など)を呈する帰還兵や患者が多数報告されており,またイラク戦争に従軍した軍人のうち38%が耳鳴を自覚しており1),統計学的に認知障害や鬱病と強い相関があることが報告されている.耳鳴に悩まされ自殺に至る症例も報告されており米国を中心に社会問題となっているものの6),爆傷による難聴,耳鳴の発生メカニズムは未だ解明されていない.

2.  爆傷による内耳障害の問題点

爆傷とは,爆発によって生じる外傷の総称で,一次爆傷から四次爆傷まで4つに分類される.一次爆傷はblast(いわゆる爆風そのもの)による直接的な外傷であり鼓膜穿孔や肺損傷,腸管出血など空気や水を含む臓器が障害されやすいとされている.二次爆傷はblastによって飛ばされた破片による外傷で,三次爆傷はblastで体が飛ばされ地面や壁などに当たることで受ける外傷である.また四次爆傷は一次から三次爆傷以外の原因で生じる外傷で,blast wind(blastの成分のうちshock waveの成分を含まない,伝播速度の遅い爆風成分)の熱による熱傷や,爆発によって生じた化学物質による化学損傷などが含まれる.

これまでに,爆傷による耳障害を再現する動物モデルがいくつか報告されており,そのうち最も汎用されているのは衝撃波管を用いたモデルである.これは,圧縮空気を筒状の装置に高圧で充填し,高圧部の一端を構成する膜を破断することで管の先端に設置した動物へ衝撃波を照射する古典的な手法であるが,衝撃波の特徴である強い陽圧波の直後に生じる負圧を再現することが可能で,現在でも最も汎用性の高いモデルである.この衝撃波管により発生させる衝撃波は,高圧部の圧力を変化することで最大圧力を容易に変化させることができる.これまで報告されている内耳爆傷モデルでは,共通して衝撃波の最大圧力を上昇させるとエネルギー依存性に高度の内耳障害が生じること,また一定以上の最大圧力を負荷すると鼓膜穿孔が生じることが知られている7-9).一般に鼓膜穿孔の有無は戦場での爆傷受傷の程度を判断するトリアージに用いられているが4),興味深いことに同程度の最大圧力で衝撃波を照射した場合,鼓膜穿孔が生じた個体の方が内耳障害の程度が軽いことが報告されている9).これは,鼓膜が破断することによって内耳へ到達する圧力が減弱することによると考えられている.このように,衝撃波管によるモデルは,実際の爆傷受傷を比較的忠実に再現できる利点があるが,一方で鼓膜穿孔による伝音難聴が混在することは,特に動物モデルにおいて受傷後の感音難聴を正確に評価する妨げとなる.また,前述のようにblastは非常の立ち上がりが早く伝播速度も極めて速いshock waveの成分と,shock waveに比べゆっくり伝播しエネルギーも穏やかなblast windとの成分を含んでいる.いずれの成分も生体組織に影響を及ぼすものの,shock waveの方が極めて速い圧力の立ち上がりと高いピーク圧を特徴とすることから最も傷害性が高い成分である.そのため,爆傷研究ではshock waveを発生させる装置を用いるのが一般的である.かつては限られた施設において実際の爆薬を用いて研究が行われていたが,近年では圧縮空気を用いたshock wave発生装置を用いた研究が多い.圧縮空気により発生させたshock waveの圧波形は実際の爆発の圧波形に近いという大きな利点を有する一方で,屋外に設置している施設もあるように装置が大きく,実験動物の死亡率が高いことが欠点であった.

2014年以降に我々の研究グループが発表したLaser-induced shock wave(LISW)を利用したラット内耳爆傷モデル10,11)は,鼓膜穿孔や耳小骨連鎖離断など伝音難聴がない純粋な感音難聴モデルである.LISWは通常の実験室レベルで安全かつ簡便に発生させることができ,爆傷による肺損傷モデルや頭部爆傷モデルも報告されている.ラット内耳爆傷モデルは右耳後部のみshock waveに暴露させるため暴露部位以外の障害がなく,無駄な犠牲死もない.レーザーの種類や出力を変えることでLISWのエネルギーを自由に増減できるため,感音難聴の程度も自由に変えることが可能である.さらに,レーザー照射毎にエネルギーを較正するため極めて再現性が高いことも大きな利点である.以上の優位性から,LISWを用いた内耳爆傷モデルは,爆傷による難聴や耳鳴のメカニズム解明や治療の検討に非常に有用である.本稿ではLISWモデルで明らかとなった爆傷による内耳障害について概説する.なお,本稿で紹介する実験結果はすべて防衛医科大学校実験動物倫理委員会の承認(承認番号12096)を得て,防衛医科大学校動物実験規則に則り実施した.

3.  Laser-induced shock wave(LISW)の作成法

LISWは,径4 mmのスポットで532-nm Q-switched Nd:YAGレーザー(Brilliant b, Quintal; pulse width, 6 nanoseconds FWHM)をターゲットに照射することで,ターゲット直下に発生する(Fig.1).ターゲットは厚さ1.0 mmのpolyethylene terephthalate:PET製のシートに,厚さ0.5 mmの黒色ゴムを貼り付けたもので,傷害を与えたい組織側に黒色ゴムが接するように密着させてPET側からレーザーを照射する.レーザー出力は2.0,2.25,2.5 J/cm2の3条件とし,コントロール群と合わせて計4群とした.塩酸ケタミン(50 mg/kg)および塩酸メデトミジン(1.0 mg/kg)の混合麻酔を腹腔内投与した後に右耳後部を丁寧に剃毛し,右耳後部にレーザーを1回照射してLISWに暴露させ,片側の内耳を傷害した.本研究の実験プロトコールをFig.2に示す.

Fig.1 

Generation of LISW.

(a) Experimental setup for the LISW. Shock waves were generated by irradiating a laser target (black rubber) with a Q-switched Nd:YAG laser. Plasma formation occurred at the interface between a transparent material and the black rubber. (b) Image showing how to apply an LISW to induce inner ear injuries.

Fig.2 

Experimental protocol.

4.  内耳の構造と聴覚

内耳は外耳,中耳から伝播した音(物理的振動エネルギー)を神経の活動電位としての電気的エネルギーに変換し,中枢へ伝える構造である.内耳は内耳液(内リンパ液・外リンパ液)で満たされているため,外界からの音情報はアブミ骨の振動を介して内耳内では内耳液の波動として伝えられる.内耳液が振動すると,基底板が受動的に振動し,基底板上の有毛細胞も受動的に振動する.有毛細胞の先端には3列の聴毛があり,外側に行くほど長くなっている.聴毛の先端には機械‐電気変換チャネルという陽イオンに対する非特異的なイオンチャネルが存在し,有毛細胞が振動した際,聴毛が外側に傾くとチャネルが解放し有毛細胞は脱分極する.逆に聴毛が内側に傾くと陽イオンの流入が無くなるので過分極となる.外有毛細胞はこのような受動的な振動に伴って能動的に伸縮運動をすることが知られており,この伸縮運動によって基底板の振動はより大きくなり,音に対する感受性が増し,音の分別能が向上すると考えられている.このことをActive processと言い,内有毛細胞における音の感受性も高めている.外有毛細胞も内有毛細胞も下方で一次聴神経(ラセン神経節細胞)とシナプス結合しているが,求心性線維の約5%が外有毛細胞,約95%が内有毛細胞と結合しておりほとんどの音情報は内有毛細胞により伝達されることになる.しかし,前述のとおり,外有毛細胞にはActive processという役割があるため,外有毛細胞も内有毛細胞も音情報の伝達に重要な意味を有している.脱分極した有毛細胞はシナプス間にグルタミン酸を放出してラセン神経節細胞を興奮させる.このシナプスにはシナプスリボンという特殊な構造が存在している.シナプスリボンはシナプス前膜直下の細胞質に内有毛細胞では18~20個,外有毛細胞では1個存在している.また,ラセン神経節細胞とシナプスリボンは1対1の比率で存在している.1つ1つのシナプスリボンは,周囲にグルタミン酸を大量に含有した小胞を有しており,有毛細胞が興奮した際にシナプス間に放出している.本研究では,これら聴覚に重要な構造のうち,特にシナプスリボンおよび外有毛細胞の聴毛に焦点を当て解析を行った.

5.  爆傷モデル動物における内耳障害の病態

衝撃波による内耳障害の責任病巣としては,以前は騒音負荷による内耳障害と同様の病態が想定されていた.すなわち,どちらも強大なエネルギーを持つ空気を媒介とした波動が脆弱な内耳へ到達することによって,機械的な破壊が内耳に生じるという病態モデル12)である.一般に齧歯類の聴覚研究では聴力の変動がプラトーに達し,慢性期と考えられる時期が4週後である.そこでLISWによる感音難聴の原因を検討するため,LISW暴露4週後に蝸牛のコルチ器全てを共焦点レーザー顕微鏡にて観察し,有毛細胞,シナプス,神経節細胞の細胞数を詳細に定量するSurface preparation法を行った(Fig.3).意外なことにLISW暴露耳では2.25 J/cm2以上の高エネルギー群で聴性脳幹反応(auditory brainstem response: ABR)において爆傷受傷後4週で聴力悪化を認めているにもかかわらず(Fig.4),有毛細胞数は全ての条件・周波数で有意な減少を認めていなかった.続いて,らせん神経節ニューロンと内有毛細胞の間のシナプスについて検討した内有毛細胞1個当たりのシナプスリボン数は,LISW暴露耳でレーザーのエネルギー密度依存性に低下していた.特に,2.5 J/cm2群では有意に減少しており,高周波数の音を受容する蝸牛基底回転領域ほど障害が強かった.

Fig.3 

Changes in the organ of Corti after LISW exposure.

(a-i) Confocal images of immunohistochemistry for OHCs (a-d, blue, anti-myosin 7a), synaptic ribbons (e-h, red, anti-CtBP2; the white dotted line in e’-h’ shows the contour of the OHCs; anti-CtBP2 also stains the IHC nuclei) at 24 kHz. Scale bar is 5 μm. IHC, inner hair cell; LISW, laser-induced shock wave; OHC, outer hair cell.

Fig.4 

Measurement of hearing function using ABR before and after LISW exposure.

Significant ABR threshold shifts one day after LISW (filled squares) exposure were observed up to 1 month after exposure (filled diamonds) in the 2.25 (b) and 2.5 J/cm2. Error bars indicate SEs of the means (n = 5 in each group). ABR, auditory brainstem response; LISW, laser-induced shock wave.

高エネルギーのレーザー照射群ではLISW暴露4週後に暴露耳においてABR閾値が高周波数領域で約30 dBの難聴を認めた.しかし,Kujawa & Libermannが2009年に発表したマウスのシナプスリボン数とABR閾値上昇の関係について詳細に検討した論文13)によると,有毛細胞が減少していない場合たとえシナプスリボンが半減しても聴性脳幹反応の閾値上昇は数dBと報告している.我々の結果でも爆傷受傷後に有毛細胞の減少は認めていないため,組織学的検討で判明したシナプスリボンの減少ではABR閾値上昇の説明がつかない.また高周波数になるほど歪成分耳音響放射(DPOAE)値の低下傾向が見られた.DPOAEは外有毛細胞の機能を反映しているとされるため,免疫染色ではわからない聴毛の障害がある可能性を考慮し走査型電子顕微鏡で外有毛細胞の聴毛を調べた.音に由来する振動は有毛細胞の頂部にある聴毛によって伝えられる.正常の外有毛細胞では聴毛は3列でV型である.しかし,高エネルギーのレーザー照射群では最も外側の列の聴毛が外側に倒れており(Fig.5),その部位はABRで閾値上昇を認めていた高音域の担当部位と一致した蝸牛基底回転部であった.

Fig.5 

Surface structures in the OHCs.

(a-d) Scanning electron microscopy images of three rows of OHC stereocilia at the 16 kHz organ of Corti area. (a’-d’) high-power views of single OHC stereocilia. Scale bar is 2 μm. OHC, outer hair cell.

6.  内耳爆傷により生じる内耳シナプス障害の病態

近年,騒音負荷における内耳で最も脆弱な組織は内有毛細胞下のシナプスであることが明らかとなった13).この病態をcochlear synaptopathyと呼ぶが,特に有毛細胞に脱落を認めない程度の騒音負荷でも著明なシナプス減少を認める病態では,聴力閾値は正常であるにも関わらず,耳鳴や聴覚過敏,あるいは騒音下での明瞭度低下を生じ,臨床上hidden hearing lossと呼ばれる14).同様の症状は,爆傷受傷後の患者でもしばしば見られる病状であり,やはり動物モデルでもcochlear synaptopathyが顕著に生じることが明らかとなっている7,9,11)

内有毛細胞下のシナプスが衝撃波曝露に対して脆弱である一方,有毛細胞そのものは騒音負荷に比べて比較的保存されることが多いが,衝撃波の最大音圧が上昇すると,鼓膜穿孔を伴いかつ外有毛細胞の脱落を生じる7,10).さらに,外有毛細胞は脱落していないものの聴力閾値が上昇している様な衝撃波照射では,機械的振動を直接受容し電位に変換するmechanoelectorical channelを有する有毛細胞頂部の聴毛,特に不動毛(stereocilia)が傷害される.同様の病態は騒音負荷でもはじめに構造的変化が生じるとされていた15)が,衝撃波受傷ではより顕著な不動毛の障害が生じることが明らかとなっている11).聴覚を受容する一次ニューロンであるらせん神経節は,受傷初期には強いエネルギーを受けた場合に一次的な細胞脱落を生じるが11),衝撃波がらせん神経節を直接脱落させなくても有毛細胞やシナプスの脱落により二次的に遅発性の神経節細胞の脱落を生じることが知られている9,13).このような神経節の脱落は,聴力閾値の脱落だけでなく,語音明瞭度低下や耳鳴の原因となりうる.

7.  内耳爆傷により生じる有毛細胞聴毛障害の病態

LISW暴露後1ヶ月であってもDPOAEの低下している周波数と一致して電子顕微鏡で聴毛の障害が観察された.興味深いことに,聴毛の乱れ方が特徴的であった.すなわち3列ある聴毛のうち,内側2列は正常であるのに対し,最も外側の聴毛のみが障害されており,Surface preparationの有毛細胞カウント結果と同様に有毛細胞自体の消失はほとんど認めなかった.聴毛障害は,音響外傷でも観察されるが,障害パターンは全く異なる.2011年にWangらが発表した110 dB PSLのホワイトノイズを2時間暴露させた典型的な音響外傷モデルでは,聴毛の癒合や列に関係なく聴毛がばらばらに倒れ,有毛細胞の消失も高率に認めている15).Wangらの論文では,音響暴露1ヶ月後に聴毛の形状は回復していた.2013年にChoらが発表した圧縮空気により衝撃波を作製できる装置で爆傷による難聴を再現した研究では,有毛細胞を免疫染色後に共焦点顕微鏡で観察して聴毛は正常であったと結論付けている7).しかし,Choらの論文中の画像を見ると,最も外側の聴毛がその基部から外側に倒れているようにも見えたため,Choらと同じグループの研究者に確認したところ,障害はあると認め,その後電子顕微鏡で証明したとの答えを得た.またネコに音響外傷(110 dBホワイトノイズを15分間)を与え,2ヶ月以上経過してから電子顕微鏡で聴毛を評価した報告でも同じように最も外側の長い聴毛のみが倒れる所見が見られている16).この論文では,聴毛の根の部分(rootlet)で折れている所見を認めておりrootletで折れている聴毛の数は聴力障害と良く相関すると結論付けている.音響外傷の条件としてはWangらの報告より軽度だが,動物種が異なるため比較はできない.聴毛は,同じ列の隣接する聴毛とside linkという構造で結合しており,内側から1列目と2列目,あるいは2列目と最外側の列の聴毛は頂部でtip linkという構造で結合している.我々が走査型電子顕微鏡で得た所見からは,rootletが折れているかどうかは確認していないが,LISWによりtip linkやside linkが切断され,完全に外側へ倒れてしまっていた可能性がある.有毛細胞の聴毛障害は,これまで多くの内耳障害で見られる病態であったが,その再現性にばらつきが多く見られていた.LISWによる内耳障害は聴毛障害を高い再現性で生じさせることができるため,この病態解明に有用なモデルである.

8.  まとめ

衝撃波を発生するモデルは通常圧縮空気などを用いた大掛かりな装置で行われるが,全身に影響が及ぶため動物実験によって得られる結果の解釈が極めて複雑になる傾向にある.今回作成したレーザー誘起衝撃波による爆傷モデルは,内耳局所にしか影響が無いため爆傷による純粋な感音難聴の評価が可能である.本モデルにおける聴力域値上昇の主たる原因は外有毛細胞の聴毛障害であることが判明した.また内有毛細胞とラセン神経節細胞の間のシナプスの減少やラセン神経節細胞数の減少も聴覚障害の原因と考えられた.

利益相反の開示

利益相反なし.

謝辞

本稿の執筆に際し御協力を賜りました防衛医科大学校耳鼻咽喉科学講座の丹羽克樹先生,栗岡隆臣先生,防衛医学研究センター情報システム研究部門の佐藤俊一教授,川内聡子先生に深く感謝の意を表します.

引用文献
 
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