The Journal of Japan Society for Laser Surgery and Medicine
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REVIEW ARTICLE
Photodynamic Therapy Targeting Dormant Cancer Cells with 5-Aminolevulinic Acid
Shun-ichiro Ogura Taku NakayamaShinkuro YamamotoHideo FukuharaKazuhiro HanazakiKeiji Inoue
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2023 Volume 43 Issue 4 Pages 238-248

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Abstract

5-アミノレブリン酸(ALA)は生体内で合成されるアミノ酸の一種であり,ポルフィリンやヘムの前駆体である.がん患者にALAを経口投与した場合,腫瘍特異的なプロトポルフィリンIX(PpIX)の蓄積が認められる.ポルフィリンが蛍光物質であること,さらには可視光照射下において活性酸素種を発生させることを利用して,がんの光線力学診断(ALA-PDD)や光線力学療法(ALA-PDT)へ応用されている.休眠がん細胞は,腫瘍内の微小環境などの影響によって,細胞増殖が抑制されたがん細胞である.周囲の環境変化により再増殖をするうえ,化学療法や放射線療法に対して抵抗性を持つため,がんの再発と密接な関わりがあると考えられている.本研究では,ヒト前立腺がん由来細胞株PC-3を用いて,細胞密度に着目したin vitroにおける休眠がん細胞モデルを構築した.また,休眠がん細胞モデルにおけるALA添加後のPpIX蓄積およびPDT感受性の評価を行い,休眠がん細胞のALA-PDTに対する感受性が高いことを示した.さらに,休眠がん細胞モデルに対してマイクロアレイ解析を行うことにより,休眠状態への移行に付随して脂質代謝が亢進することを明らかにした.Acyl-CoA synthetase(ACSs)の抑制剤(triacsin-C)を添加することによって,PpIX蓄積が減少し,ALA-PDTに対する感受性が低下した.以上のことから,休眠状態への移行に付随するALA-PDTの殺細胞効果の亢進は,脂質代謝の亢進と相関するものであることが判明した.

Translated Abstract

Cancer can develop into a recurrent metastatic disease with latency periods of years to decades. Dormant cancer cells, which represent a major cause of recurrent cancer, are relatively insensitive to most chemotherapeutic drugs and radiation. We previously demonstrated that cancer cells exhibited dormancy in a cell density-dependent manner. Dormant cancer cells exhibited increased porphyrin metabolism and sensitivity to 5-aminolevulinic acid-based photodynamic therapy (ALA-PDT). However, the metabolic changes in dormant cancer cells or the factors that enhance porphyrin metabolism have not been fully clarified. In this study, we revealed that lipid metabolism was increased in dormant cancer cells, leading to ALA-PDT sensitivity. We performed microarray analysis in non-dormant and dormant cancer cells and revealed that lipid metabolism was remarkably enhanced in dormant cancer cells. In addition, triacsin-C, a potent inhibitor of acyl-CoA synthetases (ACSs), reduced protoporphyrin IX (PpIX) accumulation and decreased ALA-PDT sensitivity. We demonstrated that lipid metabolism including ACS expression was positively associated with PpIX accumulation. This research suggested that the enhancement of lipid metabolism in cancer cells induces PpIX accumulation and ALA-PDT sensitivity.

1.  ALAを用いたがんの光線力学診断・治療法

5-アミノレブリン酸(5-aminolevulinic acid: ALA)を用いた光線力学診断(ALA-based photodynamic diagnosis: ALA-PDD)は注目されている新規診断法の1つである.ポルフィリン前駆体である光増感作用を持たないアミノレブリン酸(ALA)が,プロドラッグとして臨床的に用いられるようになった.ALAの投与は腫瘍において,内在性のプロトポルフィリンIX(PpIX)の生合成,蓄積を促進する(Fig.1).従来の光増感剤は静脈内注射による投与経路しか選択することが出来なかったが,ALAは経口投与や局所塗布など患者の身体的負担が少ない点も利点として挙げられる.このことから,欧米でALAは特に皮膚がんの治療において,広く認可されて一般的な治療薬となっている1).ALAそのものは光増感作用を有していないが,内在性の光増感剤であるPpIXは腫瘍組織に選択的に蓄積する強力な光増感剤である.ALA投与後の腫瘍選択的なPpIX蓄積は,脳・食道・膀胱・子宮・皮膚など多くの組織において認められる1).ALAは1999年に米国食品医薬品局(FDA)によって,黒色腫を除く皮膚がんの治療薬として認可されている.日本においては2013年に脳腫瘍の術中蛍光診断用体内診断薬として,2017年に膀胱がんの術中蛍光診断用体内診断薬として薬事承認され,臨床現場において活用されている.

Fig.1 

(A) ALA and PpIX structures. (B) PpIX absorption and Fluorescence in DMSO.

例えば,最も悪性度が高い脳腫瘍である悪性神経膠芽腫(Glioblastoma: GBM)の患者の生存期間中央値(median survival time: MST)は,わずか16ヶ月程度である2).GBM患者におけるMSTは,手術の際の腫瘍切除率と強く相関することが示されている.Kelesらは残存腫瘍の大きさと予後の関係を107例のGBM患者で調べており,手術後にCTやMRIで腫瘍が認められなくなった患者のMSTは93週間であった.一方で,残存腫瘍の大きさが10 cm3以下,10 cm3~20 cm3,20 cm3以上の患者のMSTはそれぞれ68.7,49.0,50.8週間であった3).また,別の報告においてほぼ全ての腫瘍を切除した際の5年生存率は45.8%である一方,50%の腫瘍しか切除できなかった際の5年生存率は17.5%であった4,5).このことから,腫瘍の切除率はMSTのみならず5年生存率にも影響を与えると考えられる.これらのことから,手術の際にできるだけ多くのGBMを摘出することおよび残存腫瘍の大きさを10 cm3以下に抑えることが重要であると言える.しかし,悪性脳腫瘍の手術においてこれを達成することは,術後の後遺症との兼ね合いより困難である.脳腫瘍の手術の際には,隣接した正常組織まで切除すると術後に片麻痺や言語障害などの重篤な後遺症が残る恐れがある.悪性脳腫瘍は周囲の正常脳組織に浸潤するため正常組織との境界が曖昧であり,正常組織を切除する危険を冒せないため,境界領域のがんを全切除できないことが大きな原因である.そこで,ALA-PDDが注目されている.ALAは分子量が131.13の低分子であるため,脳と血液との間の物質交換を制限する機構である血液脳関門を通過することができる.加えて,ALAの代謝物であるPpIXが腫瘍特異性のある蛍光物質であるため,GBMの術中診断に適している6).白色光下では正常組織と腫瘍の境界が曖昧であるがPpIXの蛍光を観察することで腫瘍の識別が容易になり,切除後に腫瘍の取り残しがあることも確認できる.実際に,Stummerらの報告では,40%だった脳腫瘍の切除率がALA-PDDを併用することによって78%まで増加しており,これによって51週間だったMSTが101週間まで延長している7,8).脳腫瘍患者にALAを経口投与した場合,脳腫瘍のグレードが上がるにつれて腫瘍へのポルフィリンの蓄積量が増加することが報告されている9).このことから,ALAを用いたがん診断は悪性度の高いがんにも有効であると考えられる.GBM患者に対するPDD薬として,ヨーロッパでは2007年にALA塩酸塩(GliolanTM)が認可されており,日本においても2013年にALA塩酸塩(ALAGLIOTM)が認可された.

さらに,腫瘍特異的に蓄積するPpIXは可視光照射を行うことで,細胞傷害性活性酸素種(reactive oxygen species: ROS)である一重項酸素などを発生させる10-13).ROSの発生により,がん細胞のアポトーシスやネクローシスを誘導することができる.この性質を利用して,がん治療を行う手法が光線力学療法(ALA-based photodynamic therapy: ALA-PDT)である.本治療法は,副作用が比較的軽微で早期がんに対して高い臨床成績が報告されている.ALA-PDDとALA-PDTでは照射する可視光の波長が異なる.ALA-PDDを行う際は,PpIXの発光が強く認められる青色を照射し,赤色の蛍光を検出する.しかし,波長が短い青色の光は散乱しやすく,組織への透過能が低い.そこで,ALA-PDTを行う際は,組織への透過能がより高い赤色光を使用する.なお,PDT薬としてのALAは日本において未認可であり,早い認可が望まれている.

2.  ポルフィリン・ヘム生合成経路

ALAは生体内に存在するアミノ酸の一種であり,ポルフィリン・ヘムの前駆体である.ヘムは様々なタンパク質の補欠分子族として働く生体にとって必須な物質であり,ヘモグロビンやミオグロビンによる酸素の貯蔵と運搬・ミトコンドリア内複合体による酸素呼吸等に関与する.哺乳類細胞内のポルフィリン・ヘム生合成は8つのヘム生合成酵素,2つのヘム代謝酵素,および2つのATP-binding cassette(ABC)トランスポーターによって制御されている14-16)(Fig.2).ポルフィリン・ヘム生合成はミトコンドリア内でのALAの合成から開始される.ALAはALA synthase 1(ALAS1)によってスクシニルCoAとグリシンから合成される.次に,ALAがミトコンドリア内から細胞質へと輸送され,2分子のALAがALA dehydratase(ALAD)によって縮合しPorphobilinogenが生成する.その後,4分子のPorphobilinogenがPBG deaminase(PBGD)によって縮合し,直鎖上のHydroxymethylbilaneとなる.HydroxymethylbilaneはUroporphyrinogen III synthase(UROS)によってテトラピロール骨格を有するUroporphyrinogen III(UPgenIII)に合成されたのち,Uroporphyrinogen decarboxylase(UROD)によってCoproporphyrinogen III(CPgenIII)へと代謝される.以降のヘムまでの生合成反応は再びミトコンドリア内で行われる.CPgenIIIは主にミトコンドリア外膜に発現しているABCトランスポーターABCB6によって細胞質からミトコンドリアへ輸送されたのち,Coproporphyrinogen III oxidase(CPOX)によりProtoporphyrinogen IXとなる.Protoporphyrinogen IXは,Protoporphyrinogen oxidase(PPOX)によってProtoporphyrin IX(PpIX)へと代謝される.最後にPpIXはFerrochelatase(FECH)によって2価の鉄イオンを配位されることでヘムになる.合成されたヘムは,ミトコンドリア内膜および外膜に貫通して発現しているFLVCRによって細胞質に輸送され,ヘモグロビン,ミオグロビン,シトクロムP450等の様々なタンパク質に組み込まれる.ポルフィリン生合成経路においては,ALAS1によるALAの生合成が律速である17,18).タンパク質と結合していない遊離のヘムは,ラジカルの発生を促進し細胞毒性を引き起こす.そのため,遊離のヘムはHeme oxygenase 1(HO-1)によって代謝されてBiliverdinとなり,Biliverdin reductase(BVR)によって速やかにBilirubin,一酸化炭素,および2価鉄に代謝される14).外因的に投与されたALAはペプチドトランスポーターであるPEPT1やPEPT2によって細胞内へと取り込まれ,律速過程であるALASを経ずにヘム生合成経路によってPpIXまで代謝される.正常細胞では合成されたPpIXは速やかにヘムへと代謝されるが,がん細胞においてはヘムへと代謝されずにPpIXが細胞内に蓄積する.その原因として,2価の鉄イオンをPpIXに挿入するFECHの活性低下やミトコンドリア内の鉄イオン量の減少が一因として報告されている19-21).なお,生体内にALAの代謝経路があることから,生体外より過剰量を投与しても正常組織における中毒症状は生じづらいと考えられる.このことは,ALAを用いたがん診断・がん治療が安全である理由の1つと言える.当研究室の知見および他の報告から,ALA添加後のPpIX蓄積量は,PEPT1とABCB6の発現亢進およびABCG2の発現低下と強い相関を示すことが明らかになっている22-26)

Fig.2 

Porphyrin and heme metabolism

3.  腫瘍深部の環境

一般的に正常組織は血管が規則正しく等間隔に並んでいる.具体的には,太い幹となる血管があり,それから枝分かれするように一定の間隔を保つように血管が走行する27).そのため,組織を構成する細胞間の環境が比較的均一に保たれている.一方で,腫瘍組織の血管配置は不均一であり,太さの統一性も保たれていないことが多い(Fig.327).その結果,細胞密度,栄養濃度,酸素濃度,老廃物濃度,pHなどの勾配が生じ,個々の異なった性質を持つ微小環境を構築することが知られている28).腫瘍の表面は正常組織と接しており,血管からの距離が比較的一定となるため,微小環境は腫瘍表面より腫瘍深部において顕著な差が生じるものであると考えられている.

Fig.3 

Microenvironment in deep tumor

これらの微小環境はポルフィリン代謝にも影響を及ぼすことが知られており,特に酸素濃度はがん細胞におけるALA投与後のPpIX代謝に顕著な影響を与えることが,我々の研究グループで明らかとなった.通常酸素環境下においては,ALAはPpIXおよびHemeまで代謝され,一部のPpIXの蓄積が細胞内で認められる.しかし,低酸素環境下では,ポルフィリンの中間代謝物が多量に細胞外へと排出され,Coproporphyrin IIIとして細胞外において検出される.その結果,細胞内のPpIX蓄積はほとんど認められない29).本例のように,微小環境はALAを用いた光線力学診断・光線力学治療に大きく影響を及ぼす可能性があるが,モデル構築の煩雑性や現象の複雑性などが課題となり,研究報告が少ないことも事実である.

腫瘍深部は細胞密度が高く,その一部にがん幹細胞や後述する休眠がん細胞を内包していると考えられている30).同時に,腫瘍表面からの距離に比例して照射光は減衰するため,それぞれの要素を分離して実験系を構築し,評価する必要がある.しかしながら,細胞密度,休眠がん細胞,照射光の減衰がALA-PDTに及ぼす影響を調査した報告はほとんど存在しない.

4.  休眠がん細胞におけるポルフィリン代謝

4.1  休眠がん細胞

適切な治療を受けることで腫瘍が確認されなくなったにも関わらず,がん患者は数十年後といった長い期間後に同じ疾患にみまわれることがある.この現象をがんの再発と言う.再発の原因として,外科療法で取りきれていなかった目に見えない小さながんが再び成長して現れたり,化学療法や放射線療法に抵抗性をもった一部のがん細胞が再び成長したりすることが挙げられる.特に後者の治療抵抗性をもったがん細胞と休眠がん細胞(Dormant cancer cells)は密接な関係があると報告されている31,32).休眠がん細胞は腫瘍内の微小環境などの影響によって,細胞増殖が抑制されたがん細胞である.化学療法や放射線療法の多くは,がん細胞における速い細胞増殖を治療標的としているため,細胞増殖が抑制されている休眠がん細胞に対しては十分な効果を発揮することができない33).また,休眠がん細胞は周囲の環境が変化することで再増殖し,新たな腫瘍を形成する能力がある33-35).がんの再発と強く関係しているため,休眠がん細胞に関する研究が加速的に進められている.しかしながら,現時点において細胞が休眠状態に移行するメカニズムは未解明のままである.一方で,休眠がん細胞の特徴は明らかになりつつある.井上らは休眠がん細胞の特徴を,No proliferation,No death,Metabolic suppression,Recovery to active statusの4つで定義している36,37).本定義は,同じく細胞増殖が抑制された状態である細胞老化と休眠がん細胞とを区別をすることができる.我々は,3次元培養モデルを用いてPC-3細胞(ヒト前立腺がん由来細胞株)の休眠がん細胞モデルの構築を試み,井上らが提唱した4つの条件に合致することを確認した(Fig.438).しかし,休眠がん細胞に関する研究報告は限られており,我々の報告を含めてもポルフィリン代謝や光線力学療法に関して未解明の部分が多い.

Fig.4 

Investigation of cell proliferation, cell death, glucose uptake, and recovery of active status in the 2D culture and spheroids. (A) Protein expression levels of Ki-67 and p21 in the 3D culture were detected by Western blotting. (B) Cell viability was measured by trypan blue staining. (C) 2-NBDG uptake in the 3D culture was analyzed by confocal fluorescence microscopy. (D) Re-growth of degraded spheroids in the 3D culture compared with that in the 2D culture. n = 3. Bars represent standard deviations (SD).

4.2  休眠がん細胞におけるPpIX蓄積およびALA-PDTの評価

異なる大きさのスフェロイドにおいても共焦点レーザー顕微鏡およびHigh Performance Liquid Chromatography(HPLC)を用いてPpIX蓄積を解析した(Fig.5).前記にて記した細胞休眠性と正の相関を示すPpIX蓄積の増加が認められた.加えて,PpIXが蓄積した状態に赤色光を照射することにより,休眠性が高い状態のがん細胞を効率よく細胞死に誘導できることが判明した38)

Fig.5 

The effect of cell dormancy on PpIX accumulation. After incubation for 3 days, cells were incubated for 24 h with 1 mM ALA-containing medium. (A) Confocal laser scanning microscopy images of different sizes of spheroids. Scale bar, 20 μm. (B) PpIX accumulation at different spheroid sizes was measured by HPLC. (C) ALA-PDT in spheroids. Cells were incubated for 3 days before ALA treatment. The cell density of “2D” is the same as that of “S500”. n = 3. Bars represent standard deviation (SD).

4.3  休眠がん細胞におけるトランスポーターの発現変化

ALA添加後のPpIX蓄積と強い相関がある3つのトランスポーター,PEPT1,ABCB6,ABCG2の発現をタンパク質レベルで解析した.ALAを添加せずに培養したところ,細胞休眠性に相関してPEPT1およびABCB6の発現は亢進し,ABCG2の発現は低下した.一方で,低酸素環境下の細胞においては,前記の発現変化が認められなかったことから,本試験系における代謝変化は低酸素の影響のみによる事象ではないことが示唆された(Fig.638).以上のことから,細胞休眠性はがん細胞の糖代謝や細胞増殖速度のみならず,ポルフィリン代謝にも大きく影響を及ぼし,ALA-PDTの殺細胞効果にも著しく関与することが判明した.

Fig.6 

The protein expressions of PEPT1, ABCB6, and ABCG2 were detected by Western blotting. No cells were incubated with 1 mM ALA. (A) Expression at different cell density in the 2D culture. (B) Regulation of transporters involved in porphyrin metabolism under high-cell-density 2D culture or in spheroids. CPgenIII: coproporphyrinogen III.

4.4  休眠がん細胞におけるmRNAマイクロアレイ解析

続いて我々は,細胞休眠性ががん細胞に及ぼす代謝変化を網羅的に解析するために,休眠がん細胞モデルにおいてmRNAのマイクロアレイ解析を行った.2次元培養・3次元培養の両方において低密度と高密度の2種ずつ選択し,全mRNAの測定を行った.細胞休眠性が増加するとともに,細胞周期を停止させるように,関連遺伝子に顕著な変化が生じていたことが確かめられた.また,非常に興味深いことに,細胞休眠性の増加とともに脂質代謝の亢進が認められた.Acyl-CoA synthetase関連遺伝子であるACSM3,ACSS2はともに細胞休眠性と正の相関を示した(Fig.739).本結果より,細胞休眠性と脂質代謝は正の相関を示すと仮定して,その因果関係の検証を行った.

Fig.7 

Microarray profiles of mRNA expression. (A)Phase contrast images of 2D cultured cells and 3D cultured spheroids. The scale bar is 500 μm. (B) A 2D principal component analysis (PCA) plot of the first and second components. (C) 2D and 3D cluster analysis of differentially expressed genes. Red indicates increased expression, and blue denotes decreased expression. (D) The mRNA expression of acyl-CoA synthetase medium chain family member 3 and acyl-CoA synthetase short-chain family member 2. All mRNA expression analyses were conducted using Transcriptome Analysis Console ver. 4.0.1.36. Genes with changes in expression exceeding 1.5-fold and significant at p < 0.05 genes were extracted. n = 2.

5.  脂質代謝がポルフィリン代謝に及ぼす影響

5.1  脂質代謝阻害剤がポルフィリン関連トランスポーターに及ぼす影響

Triacsin-CはAcyl-CoA synthetaseの阻害剤であると報告されており,細胞に投与することで細胞の脂質代謝を顕著に抑制できることが知られている39,40).PC-3細胞において低濃度のtriacsin-Cは細胞毒性を生じなかったことから,細胞増殖マーカーであるKi-67およびMCM7,ならびにポルフィリン代謝の関連トランスポーターであるPEPT1,ABCB6,ABCG2のmRNA発現解析を確認した.他細胞における先行報告と同様に,Ki-67およびMCM7の発現は低下し,細胞増殖が抑制されていることが示唆された.興味深いことに,PEPT1およびABCB6の発現は低下し,ABCG2の発現は亢進した(Fig.839).このトランスポーターの発現変化は,細胞が休眠状態から非休眠状態へと変化した場合と同じであった(Fig.6).

Fig.8 

mRNA expression changes induced by triacsin-C treatment. The mRNA expression levels of the cell proliferation markers Ki-67 and MCM7 and porphyrin-related transporters PEPT1, ABCB6, and ABCG2 were measured. The cells were treated with triacsin-C for 72 h. n = 3. Bars represent the SE.

5.2  脂質代謝阻害剤がALA-PDTに及ぼす影響

続いて,triacsin-C投与下におけるALA代謝の変化ならびにALA-PDTへの影響を調査した.細胞をtriacsin-Cに48時間暴露させた後に,ALAを追加にて投与することによって脂質代謝抑制後におけるポルフィリン代謝の影響を解析した.triacsin-Cによって,ALA投与後のPpIX蓄積が有意に減少することが明らかとなった.加えて,ALA-PDTへの感受性も低下することが判明した(Fig.939).以上のことから,休眠状態への移行に付随するALA-PDTの殺細胞効果の亢進は,脂質代謝の亢進と相関するものであることが示唆された.

Fig.9 

Triacsin-C suppressed protoporphyrin IX (PpIX) accumulation after 5-aminolevulinic acid (ALA) treatment. Cells were treated with triacsin-C alone for 48 h and then co-cultured with triacsin-C and ALA for 24 h. (A) Confocal laser-scanning microscopy images of DRAQ5 (nuclei) and PpIX. Scale bar, 50 μm. (B) PpIX accumulation in the presence of absence of triacsin-C as measured using a microplate reader. (C) Cell viability after 5-aminolevulinic acid-based photodynamic therapy (ALA-PDT) with or without triacsin-C. Cells were irradiated with 14.2 mW/cm2 light for 5 min. Cell viability was determined on the next day

using the MTT assay. n = 3. *p < 0.001. All bars represent the SE.

6.  結論

がんの術中診断および低侵襲な治療を目的として光線力学技術の開発が進められている.光線力学技術には光増感物質が必要であり,今日までに様々な光増感剤の開発が行われ,実臨床へと応用されてきた.我々のグループは,光増感性を持つポルフィリン骨格を有するPpIXの前駆体であるALAを用いた光線力学技術を中心に研究を展開し,がん患者への貢献を目標とした.本論文においては,化学療法や放射線療法に治療抵抗性を持ち,がん再発の一因と示唆されている休眠がん細胞におけるALA-PDDおよびALA-PDTに対する我々の結果や知見を記した.

始めに我々は,休眠がん細胞のin vitroにおけるモデル構築を目指した.3次元培養を含む高密度培養を行うことにより,休眠がん細胞の4条件を満たすことが判明したため,高密度培養モデルを休眠がん細胞モデルとして用いて以降の実験を行うこととした.ALAを休眠がん細胞に投与した場合に,非休眠がん細胞よりも多くのPpIX蓄積が認められ,光照射時の細胞生存率も顕著に低下していた.同時にポルフィリン代謝に関連するトランスポーターの発現もPpIX蓄積増加を支持する結果であった.以上のことから,ALA-PDTは休眠がん細胞に対して画期的な治療となる可能性が示唆された.また,抗がん剤を含む細胞増殖抑制剤を事前投与することにより,非休眠がん細胞においてもPpIX蓄積を増加させ,ALA-PDTの殺細胞効果を増強できる可能性があることを示した.

続いて我々は,休眠がん細胞と非休眠がん細胞の代謝変化の解析を試みた.mRNAのマイクロアレイ解析の結果より,休眠がん細胞における脂質代謝の亢進が明らかとなった.現時点において生物学的な理由の全容は未解明であるが,休眠がん細胞は脂質代謝を亢進しており,代謝変化の中心的な役割を果たしているようだ.我々は脂質代謝の阻害剤であるtriacsin-Cを投与することにより,ALA投与後のPpIX蓄積量およびALA-PDTの殺細胞効果が減少することを明らかにした.この結果は,休眠がん細胞におけるPpIXの蓄積亢進は,脂質代謝の亢進に依存することを示唆する.

上記の結果より我々のグループは,休眠がん細胞におけるALAを用いた光線力学技術や休眠がん細胞の代謝変化に関して知見を提供したが,本研究は培養細胞を用いて行った基礎研究にすぎない.これらの結果が実臨床を始め,世に生かされるためには,現実に即した応用・発展研究が必要不可欠である.本研究で得られた知見が,我が国において死亡原因第一位であるがんの征圧に貢献できることを期待したい.

利益相反の開示

著者らは次に示す会社・団体から研究費等の提供を受けた.SBIファーマ,中外製薬,武田薬品工業,ツムラ,ヤンセンファーマ,小柳財団,公益信託高知新聞・高知放送「生命の基金」.

引用文献
 
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