The Journal of Japan Society for Laser Surgery and Medicine
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REVIEW ARTICLE
The Usefulness of Lasers in Otology Practice
Sho Kanzaki
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2023 Volume 43 Issue 4 Pages 218-220

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Abstract

1)聴覚は,音波の伝導を利用しており,その振動を測定するツールが必要である.保険適用はないものの,レーザードップラーを用いることで中耳や内耳への振動をリアルタイムに計測することが可能であり,手術法の開発に有効である.海外でもご遺体を中心に解析が多く報告がされている.2)レーザー治療として,鼓膜切開,アブミ骨手術などの中耳手術において,耳小骨に振動を与えずに,蒸散,焼灼することが可能である.

Translated Abstract

1) Auditory system applies the transmission of sound waves and requires tools to measure these vibrations. Although not covered by health insurance, laser doppler can be used to measure vibrations to the middle and inner ear in real time, and is effective in developing surgical methods. There have been many reports of analysis overseas, mainly on the cadavars. 2) As a laser treatment, we can evaporate and cauterize the ossicles in middle ear surgeries such as tympanostomy and stapes surgery without causing vibration to the ossicles.

1.  はじめに

音は耳介によって集められ,外耳道を通じて鼓膜を振動させる.鼓膜の振動は3つの耳小骨を経て内耳に伝搬する.内耳はリンパ液に満たされており,そのリンパ液を介して基底版を振動させ,有毛細胞も振動させる.有毛細胞はその振動とともに自らも能動的に振動する.その際に有毛細胞のチャネルが開いて脱分極し,神経伝達物質が発せられて,電気信号がシナプスを介して脳幹,聴覚中枢まで到達して音が聴こえた,と認識する(Fig.1).大きな振動や音が内耳に加わると内耳障害をきたすという臓器の特徴があることから,本領域におけるレーザーの応用は,その音波振動を解析することができること,さらに振動を与えないように非接触型レーザーを使用することで聴覚系に大きな振動を加えずに診断や治療が可能となる利点がある1).耳科領域におけるレーザーの応用は主に中耳・内耳を対象とし,古くから行われている.本稿では,新しい知見も交えて,レーザーによる診断と治療について解説する.

Fig.1 

Anatomy of Ear

(慶應義塾大学病院KOMPASから許可を得て転載https://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000558.html

2.  診断について

レーザーを用いた耳小骨の可動性,内耳血流を観察する診断が想定される.いずれも保険収載されてはいないが,すでに計測する機器はあり,有用性は確立している.以下詳細を示す.

2.1  レーザーによる中耳耳小骨可動性に関する検査

上記の中耳・内耳の振動特性を測定する方法は複数あるが,レーザー機器で測定できる.標的物の変位が10−8 m未満で,100 Hz~100 kHzの周波数の範囲を測定できる.測定値はポイント測定値となる.振動する面を評価するには,複数の部位の測定を行う必要がある特徴を有している.

典型的な慢性中耳炎では,反復する感染のために,鼓膜に穿孔を認め,さらに重症例では,耳小骨が本来の振動を認めず,炎症によるサイトカインが耳小骨を溶解させれば骨は音を伝達しなくなる.あるいは,石灰化によって耳小骨連鎖が硬くなり,耳小骨の可動性が悪化するため,外部音を内耳に伝えられなくなり難聴となる.リアルタイムに鼓膜振動や耳小骨振動を術中に計測すれば問題点が明らかになり,さらに手術終了直前に再度計測・定量化することで最適な耳小骨再建(手術)の確認を行うことが可能となる.

他の測定機器も含めてレーザー機器も薬事承認は得られておらず,計測自体も保険適応はない.海外ではレーザードップラー(Laser Doppler Vibrometry: LDV)を用いた中耳や内耳の測定に関する報告が複数ある.振動する中耳の耳小骨や内耳基底板や内耳窓(膜)にレーザーを照射して反射光を得ることで,微細な耳小骨の振動や内耳振動を低侵襲かつ簡便に計測が可能であり,手術の開発などに応用できる.

従来から,聴力改善手術中に耳小骨の可動性は,経験のある術者の手の感覚で判断されている.術者の経験や感覚を否定するつもりはないが,その主観的要素を客観的かつ定量を可能にすることで,手術技術の伝承,データを応用した新しい手術の開発,ひいては手術治療成績の向上にもつながる.前述したとおり,計測法として,単一点に照射してとらえる方法と,複数の点を照射することで得られる方法がある.基礎研究ではあるが,われわれは耳小骨奇形のあるマウスに純音をきかせながら鼓膜臍部(umbo)に対して,Polytec社のLDVのレーザーで照射し鼓膜振動を計測した.正常聴力のマウスと比較して優位に鼓膜振動が低下していることを示した2).このようにきわめて小さな標的でも測定が可能である.

ヒト側頭骨に対するレーザー計測の報告も多数存在する3-5).LDV技術を使用して,キヌタ骨,アブミ骨,および内耳正円窓で得られた振動速度は,各部位で類似しており,約2 kHzの周波数の音で顕著な共振周波数がある.キヌタ骨およびアブミ骨の振幅はほぼ同じであったが,内耳窓である正円窓振動速度は独特のピーク速度を示した.このように,中耳および内耳の生物物理学的特性を理解することは,最適な聴力改善手術の開発にとって重要である3)

さらにレーザーを用いた中耳耳小骨,内耳を含む側頭骨の振動計測によって,新しい補聴技術である埋め込み型補聴器(Baha)やBonebridge(本邦では2022年10月承認),人工中耳(Soundbridge)5)の振動子の開発がなされた経緯がある.

ただし,LDV機器が本来工業用であることから,高価かつサイズも大きいため,医療用に特化した安価かつ小型化の機器が望まれる.特に手術室でLDVの設置を行うには時間,スペースとも要するため,改善されることを期待している.

2.2  内耳血流とレーザー計測

レーザーは振動のみならず,内耳血流を測定する場合にも使用される.この検査機器も前述の振動計測と同様に保険収載されていないが,内耳は小さいにも関わらず,エネルギーを要することから血流の激しい臓器である.レーザースペックルコントラストイメージング(LSCI)は,リアルタイムで微小循環の継続的な高解像度評価が可能となっている(Fig.2).さらにこのLSCIに内視鏡を併用し,虚血再灌流マウスモデルで蝸牛血流を測定したところ,蝸牛のスペックル信号は虚血期に減少し,再灌流期に増加し,明らかに蝸牛血流を反映していた.内視鏡LSCIシステムは,マウス蝸牛の血流とその変化を視覚化することができる6)

Fig.2 

Laser measuring inner ear blood flow

難聴の多くが内耳性難聴である.さらに,突発的に発症する突発性難聴をはじめ内耳性難聴の多くが原因不明のままである.今後,内視鏡などを応用して経鼓膜的に血流測定をもっと簡易に行うことができるようになれば,病態解明につながることになる.

3.  手術治療への応用

耳科領域におけるレーザーの使用は,主に内耳への機械的な影響を最小限にとどめるという特性を応用したものとなる.滲出性中耳炎における鼓膜切開,アブミ骨手術,鼓室形成術,外耳・中耳腫瘍摘出術において,振動を与えずに耳小骨操作を行うことでメリットがある.用いられるレーザーとして,CO2,KTP,YAGなどの報告がある7-9)

以下各論について詳説する.

3.1  滲出性中耳炎への応用

滲出性中耳炎は,滲出液の貯留のために,音の振動が通常と比較して伝わらなくなる疾患である.治療としては,鼓膜切開を行って滲出液を排液するが,切開を反復する場合は鼓膜ドレーンチューブを挿入し,継続的な排液を行う.鼓膜切開・チューブ挿入の代わりにCO2レーザーを用いて鼓膜に孔を作成・ドレナージを行う.チューブという異物を入れずに鼓膜ドレーンチューブの代用となる.

3.2  アブミ骨手術におけるレーザーの応用

耳硬化症では,アブミ骨(耳小骨の1つ)の底板の骨が溶解し,内耳と癒合してしまうことで可動性が低くなり,音を伝えられなくなる疾患である.治療としては,アブミ骨底板を開窓して人工耳小骨を入れる手術となる.アブミ骨は耳小骨で最も深部にあり,内耳と接していることから,アブミ骨への捜査はとりわけ内耳への大きな振動を与える可能性が高く,内耳障害が生じ術後難聴の悪化,めまいが生じて内耳障害をきたす危険性もある.低回転のドリルで開窓する場合が多いが,振動を加えてしまうリスクはゼロにならない.レーザーを用いれば,アブミ骨の開窓は低侵襲となる.この場合の注意点として,1)レーザー照射部位を底板の中心におくこと,2)レーザーで内耳や顔面神経などを照射しないこと,3)内耳リンパ液を熱しないこと,は重要である.

CO2レーザーは他のレーザー(KTPやYAG)と比較して術後気骨導差が小さくなっており,術後成績が良好である7,8)

現在耳手術で使用するCO2レーザーは2社から発売されている.顕微鏡に設置して照射する非接触型タイプ(AcuPulseTM:日本ルミナス)と,ドリルと同じ要領で術野にハンドピースを挿入して照射するタイプ(レザウィンII:モリタ製作所)がある.いずれも非接触型であり,耳小骨に触れることなく安全に手術操作を行うことができる.

3.3  腫瘍に対するレーザーの応用

中耳の毛細血管腫は,成人において血管中耳病変のまれな疾患であり,通常,耳閉感,拍動性耳鳴,伝音難聴,耳痛,めまいの症状を伴う.外科的切除はレーザーアブレーション技術の使用は止血と優れた視覚化を可能にすることができる10).ここに述べた論文は,内視鏡併用手術であり,今後も内視鏡とレーザーを併用した治療例は増加するであろう.

4.  まとめ

耳科領域,特に中耳・内耳に対するレーザーの応用についてまとめた.診断として耳小骨や内耳の微細な動きをとらえる方法となりうること,治療として耳小骨に振動を与えず低侵襲に手術を行えることで有用性が高い.さらに聴力改善に必要となる振動結果を得ることで,新たなる手術法の開発のために今後も必要な手法である.さらに血流解析や内視鏡との併用についても述べた.

利益相反の開示

利益相反なし

引用文献
 
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