2023 年 44 巻 2 号 p. 186-190
悪性神経膠腫に対するタラポルフィンナトリウム(talaporfin sodium: TS)を用いた光線力学的診断(photodynamic diagnosis: PDD)における顕微鏡下の特異的腫瘍蛍光強度に関する報告は少なく,今回再発悪性神経膠腫に対するTS-PDDの腫瘍特異的蛍光強度と摘出率や病理学的所見との関係ついて後方視的に検討した.7症例中2例は蛍光強陽性,4例は弱陽性,1例は陰性で,弱陽性例では腫瘍周囲組織とのコントラストがつきにくかった.現状では強陽性例が少なく,TS-PDDを再発悪性神経膠腫に対する摘出率の向上を目的として5-アミノレブリン酸(5-Aminolevlinic acid: 5ALA)-PDD同様に用いることは難しい.蛍光強陽性例に絞った使用やコントラストを増強するための増感剤の開発などさらなる研究が望まれる.
There are few reports on the fluorescence intensity of photodynamic diagnosis (PDD) with talaporfin sodium (TS) and microscopic visibility at the time of excision. Therefore, we retrospectively examined the relationship between the fluorescence intensity of tumor-specific fluorescence and clinical characteristics of recurrent malignant gliomas. Two of the seven patients who underwent PDD with TS were strongly fluorescent, four had weak fluorescence, and one had no fluorescence. Tumor fluorescence was difficult to distinguish from surrounding tissue in the weakly fluorescent cases. In this study, we found that PDD with TS clearly confirmed tumor-specific fluorescence in strongly fluorescent-positive cases. However, it is difficult to use PDD with TS as well as 5ALA to improve the extent of resection in recurrent malignant gliomas surgery. Further research is needed to enhance the tumor specific fluorescence.
悪性神経膠腫に対するタラポルフィンナトリウム(talaporfin sodium: TS)を用いた光線力学的治療(Photodynamic therapy: PDT)は,頭部磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging: MRI)で描出される造影病変周囲の腫瘍浸潤領域や機能温存の点から摘出困難な残存腫瘍に対する術中局所療法として用いられており,良好な治療成績が報告されている1).しかしPDTの深達度は5~10 mm程度と深くはなく,高い摘出率の手術は治療の大きな柱の1つである2,3).近年では様々なモダリティを用いたmaximum safe resectionが一般的となり,その中でも5-アミノレブリン酸(5-Aminolevlinic acid: 5ALA)を用いた術中蛍光診断(photodynamic diagnosis: PDD)は摘出率の上昇と無再発生存期間の延長を示した有用な手法で,本邦でも広く用いられている4).しかしTSを用いたPDT(TS-PDT)を行う症例では5ALA-PDDは行えず,摘出率が低下するリスクがある.TS-PDTを行う際に,同時にTSを用いたPDD(TS-PDD)を行うことができれば,最大限の摘出に加えたPDTが可能となると考えられる.
これまで5ALA-PDDとTS-PDDに用いる励起波長が異なるため,既存の設備によるTSの腫瘍特異的蛍光の確認は困難と考えられてきた.5ALAの代謝産物であるプロトポルフィリンIX(protoporphyrin IX: PPIX)は波長405 nm付近の青色励起光を照射することで635 nmの赤色蛍光を示すが,TSは波長664 nm付近の赤色レーザー光を照射することで励起状態となり治療効果を得る.近年,ShimizuらはTS-PDTを行う膠芽腫の手術検体に400 nmの励起光を照射することで664 nmの蛍光スペクトルが観察されたことを報告しており,5ALA-PDDに用いる手術顕微鏡光源を用いて,TS-PDDが行えることが示唆された5).
しかし手術顕微鏡を用いたTS-PDDの腫瘍特異的蛍光の肉眼所見について詳細に検討した報告はなく,TS-PDDの視認性や術中の有用性について検証する必要があると考えられる.
本研究では,再発悪性神経膠腫に対してTS-PDTと同時にTS-PDDを行った症例を後方視的に解析し,術中の腫瘍特異的蛍光の強度と摘出率などの臨床所見や病理学的所見との関係について検討し,TS-PDDの有用性について検討することとした.
筑波大学附属病院では,TS-PDTは造影病変の全摘出もしくは亜全摘が可能と考えられる悪性神経膠腫の局所再発例に対して使用しており,局所再発の診断に頭部造影MRIに加えてメチオニンpositron emission tomography(PET)を用いている.TSは添付文書に従い,照射予定時刻の22~26時間前に40 mg/m2での静脈投与を行った.また,TS-PDTは術中MRI(IMRIS: SIEMENS 1.5T MAGNETOM ESPREE)で目的とした造影病変の摘出を確認した後に行っている.
2018年9月1日から2021年4月30日までに当院で術前に悪性神経膠腫の再発が疑われ,TS-PDTを行った7例について,術中腫瘍特異的蛍光の強度(強陽性,弱陽性,陰性)と術後72時間以内の頭部MRIにおける摘出率(全摘出(Gross total resection: GTR):100%,亜全摘(sub-total resection: STR):90%~99.9%,部分摘出(partial resection: PR):90%未満),病理学的所見について後方視的に検討した.またTS-PDTを用いた手術から再再発までの期間と再再発時の再発形式についても検討した.病理学的所見はthe 2016 World Health Organization Classification of the central nervous systemに準拠した.
術中腫瘍特異的蛍光強度は顕微鏡(Leica M530 OH6)に搭載された405 nmの励起光を用いて,術者が顕微鏡下に観察した(FL400蛍光フィルター:400 nm以下の波長を遮断).腫瘍特異的蛍光の観察は全症例で肉眼的に腫瘍と考えられる領域をナビゲーションで確認した後に顕微鏡下で観察し,最も蛍光強度が強い領域について記載した.また,フォトブリーチングによってPDT効果が低下する可能性を考慮し長時間のPDDは行わず,腫瘍の蛍光評価を行った後は脳腫瘍境界面がわかりにくい部位や残存病変が疑われる部位を確認するためできるだけ短時間のPDDを行った.
本検討の結果をTable 1に示す.7例中6例でメチオニンPETにおいてTumor/Normal比(T/N比)の明らかな上昇が認められたが,1例では境界領域で放射線壊死も鑑別診断に挙げられた.腫瘍蛍光が強陽性を示した症例は2例(28.6%)で,弱陽性が4例(57.1%),蛍光陰性が1例(14.3%)だった.特異的腫瘍蛍光を示した6例中5例でGlioblastoma,IDH-wildtypeの再発と診断されたが,1例は放射線壊死が主な成分(necrotic brain tissue with atypical cell)だった.また蛍光陰性だった1例は初発時の診断がfibrous astrocytoma(grade II相当)で,再発時の病理診断はGlioblastoma,IDH-mutantだった.
| case | age/sex | Met-PET(T/N ratio) | Fluorescence intensity | Extent of resection | Initial pathological diagnosis | Pathological diagnosis at recurrence | MIB1(%) | 再再発までの期間(months) | 再再発時の再発形式 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 64/M | 1.83 | strong | GTR | GBM, IDH-wildtype | GBM, IDH-wildtype | <5 | 12.9 | no |
| 2 | 56/F | 4.04 | strong | GTR | GBM,IDH-wildtype | GBM, IDH-wildtype | 11 | 4.5 | seeding |
| 3 | 70/F | 4.47 | weak | STR | GBM, IDH-wildtype | GBM, IDH-wildtype | 33 | 2.9 | local |
| 4 | 51/F | 3.88 | weak | STR | GBM, IDH-wildtype | GBM, IDH-wildtype | 40 | 2.6 | local |
| 5 | 58/F | 2.30 | weak | GTR | GBM, IDH-wildtype | GBM, IDH-wildtype | 13 | 13.0 | seeding |
| 6 | 73/M | 1.33 | weak | GTR | GBM, IDH-wildtype | necrotic brain tissue with atypical cell | <5 | 11.4 | seeding |
| 7 | 65/M | 2.77 | none | GTR | Fibrous astrocytoma | GBM, IDH-mutant | 8 | — | — |
なお,本検討では蛍光強陽性および陰性例が2例以下のため,蛍光強度とT/N比やMIB-1 index,摘出率との間の統計学的検定は行っていない.また,蛍光弱陽性を示した2例では腫瘍が側頭幹に進展していたため亜全摘に留めている.TS-PDT後に短期間で局所再発を来した2例はいずれも蛍光弱陽性を示した亜全摘例で,全摘出後にフォローアップが行えたGlioblastoma再発の3例では全例で局所コントロールは良好だった.
蛍光強陽性を示した2例の術中写真を示す(Fig.1, 2).いずれも腫瘍に一致して強い赤色の蛍光を示しており,周囲組織とのコントラストは明瞭で腫瘍評価に有効だった.症例1では腫瘍周辺領域に非常に淡い腫瘍特異的蛍光を認めたが,術中MRIで造影病変の全摘出が確認できたため追加摘出は行っていない.症例2では病変の摘出後にTS-PDDを行ったが蛍光陰性で術中MRIでは造影病変の全摘出が確認できた.また,蛍光陰性ながら術中所見から腫瘍が疑われる領域を一部摘出したが,病理組織では軽度の異型グリア細胞が散在するのみで明らかな腫瘍細胞は認められなかった.一方で蛍光弱陽性だった2例の術中写真(Fig.3, 4)では,いずれも腫瘍特異的蛍光は淡く確認できたが,周囲組織とのコントラストがつきにくかった.また最終的に放射線壊死と病理診断された症例6(Fig.4)では放射線壊死領域と脳室上衣はいずれも蛍光弱陽性を示した.症例6では摘出後の蛍光陰性を確認したが,症例5ではメチオニンPETの高集積部位をフェンスポスト法を用いて摘出しており摘出腔の蛍光は確認していない.いずれの症例でも術中MRIで造影病変の全摘出が確認された.亜全摘に留めた症例3と症例4では腫瘍残存が明らかでありフォトブリーチングのリスクから摘出腔へのTS-PDDは行っていない.

Case 1 (A) Preoperative, axial, T1-weighted, post-contrast MRI showed contrast lesion. (B) Preoperative Methionine PET showed hyperaccumulation consistent with contrast lesions in MRI. (C) tumor showed strong red tumor-specific fluorescence with PDD.

Case 2 (A) Preoperative, axial, T1-weighted, post-contrast MRI showed contrast lesion. (B) Preoperative Methionine PET showed hyperaccumulation consistent with contrast lesions in MRI. (C) tumor showed strong red tumor-specific fluorescence with PDD.

Case 5 (A) Preoperative, axial, T1-weighted, post-contrast MRI showed contrast lesion. (B) Preoperative Methionine PET showed hyperaccumulation consistent with contrast lesions in MRI. (C) tumor showed weak red tumor-specific fluorescence with PDD (arrow).

Case 6 (A) Preoperative, axial, T1-weighted, post-contrast MRI showed contrast lesion. (B) Preoperative Methionine PET showed slight hyperaccumulation consistent with contrast lesions in MRI. (C) tumor showed weak red tumor-specific fluorescence with PDD (arrow: tumor, arrowhead: ventricle wall).
タラポルフィンナトリウム投与にともなう重篤な合併症はなかった.
本検討では再発悪性神経膠腫に対するTS-PDDの蛍光強度について検討を行った.TSTS-PDDを行った7例中,強陽性は2例,弱陽性が4例,陰性が1例だった.蛍光強陽性例(28.6%)ではいずれもLeica M530 OH6に搭載された5ALA-PDDに用いられる405 nmの励起光を用いて,TS-PDDで腫瘍特異的蛍光が顕微鏡下に明確に確認できた.一方で弱陽性例では周囲組織とのコントラストがつきにくく,また放射線壊死や脳室上衣にも蛍光が認められた.蛍光陰性だった症例は低悪性度神経膠腫から悪性転化したと考えられるIDH-mutantの症例だった.
悪性神経膠腫におけるタラポルフィンナトリウムの腫瘍特異的蛍光の特徴として,Shimizuらはスペクトロメーターを用いて蛍光強度を測定し,初発例と比較して再発例で有意に蛍光強度が低いことや細胞密度と蛍光強度が相関することを報告している5).Akimotoらは組織中のTS濃度を測定し,有意差はないものの再発例では初発例と比較して蛍光強度が低いことを報告している6).本検討では腫瘍特異的蛍光強陽性を示した症例2において蛍光陰性部位に明らかな腫瘍細胞は認められず,細胞密度と蛍光強度との関連性が示唆された.本検討では症例数が少なく検討できなかったが,再発悪性神経膠腫におけるKi-67やメチオニンPETとTS-PDDの蛍光強度との関係について示唆した報告はなく,今後の症例の蓄積が必要であろう.また,特に弱陽性例で全体的に腫瘍特異的蛍光が淡く周囲とのコントラストがつきにくい印象があり,再発例では放射線化学療法による腫瘍増殖能の低下などによって初発例と比較して蛍光強度が低下している可能性がある.
本検討では症例6で脳室壁に淡い蛍光を認め,一部で周囲と比較して強い蛍光を示した.5ALAで腫瘍進展のない脳室上衣が蛍光を示すことはよく知られており炎症細胞浸潤や脳浮腫が原因とされるが,本症例では特に頭部MRIで浮腫を伴う脳室周囲で蛍光が強く認められた7).TSは比較的早期から浮腫領域へ漏出することも報告されており,炎症細胞浸潤などによる蛍光に加えて脳浮腫領域へのTSの漏出が要因で一部の脳室壁の蛍光が目立ったと考えられる8).
再発悪性神経膠腫に対するTS-PDDの有用性については,蛍光強陽性例では5ALA-PDDと同様に蛍光を確認しながら摘出術が行える可能性があるが,蛍光弱陽性例では腫瘍と周囲組織のコントラストがつきにくく腫瘍特異的蛍光を頼りに摘出を行うことは難しい.蛍光弱陽性例でコントラストがつきにくい原因として,前述した再発症例であることやタラポルフィンナトリウムの周囲組織への漏出に加えて出血や自家蛍光の影響が考えられる.タラポルフィンナトリウムは血液中のアルブミンと主に結合するため血液の術野への混入は偽陽性の原因となる.自家蛍光については,励起光の照射によって周辺脳から波長540~580 nm程度の微弱な蛍光が観察されることで,肉眼で確認した際のコントラスト低下の要因となりうる9,10).Akimotoらは自家蛍光などの低波長光を遮断するフィルターを顕微鏡に装着することでタラポルフィンナトリウムの腫瘍特異的蛍光が確認されたことを報告しているが,再発例では蛍光弱陽性が多く脳腫瘍境界面がTS-PDDで判断しにくいとも述べている6).本検討でも腫瘍特異的蛍光強陽性を示した症例1では,造影病変の周辺領域で蛍光弱陽性を示した.腫瘍特異的蛍光以外に放射線治療後の影響や炎症などによる蛍光を見ている可能性があり,特に再発例の脳腫瘍境界領域で蛍光弱陽性を示す領域を摘出する際には慎重になる必要があるだろう.
本検討では再発悪性神経膠腫において蛍光強陽性を示す症例は30%未満と少なく,TS-PDDを5ALA-PDDの代替として用いるためには周囲組織とのコントラストを改善する必要がある.その1つの方法として,光感受性物質の腫瘍特異的集積現象を増強する方法が考えられる.5ALAにおいてはカルシトリオールやインドメタシンの投与による腫瘍特異的蛍光の増強が報告されており,タラポルフィンナトリウムにおいても腫瘍特異的蛍光の機序解明と蛍光増強法に関して今後の研究が期待される11,12).
今回我々は悪性神経膠腫手術において短時間のTS-PDDとその後のTS-PDTを行った.亜全摘だった2例はいずれも3ヶ月以内に局所再発を来している一方で,全摘出が得られた例では局所再発は認められなかった.亜全摘例ではPDTの治療深度より厚く腫瘍が残存していたため早期局所再発を来したが,全摘出例においてはPDTによる一定の治療効果が得られたと考えられる.本検討の結果からは,短時間のPDDであればフォトブリーチングによるPDT効果の減弱の可能性は低いことが示唆される.
本検討のlimitationとして,後方視的研究かつスペクトロメーターを用いた定量的な蛍光強度測定を行っておらず蛍光評価が定量的でないこと,さらに症例数が少ないことがあげられる.結果の解釈には制限があり,症例の蓄積が必要である.しかし,TS PDD強陽性例では既存の設備のみで腫瘍特異的蛍光を判別できると示すことができた.一方で蛍光弱陽性例ではコントラストの改善が必要である.現状では強陽性例は少なく,再発悪性神経膠腫に対してTS PDDを5ALA-PDD同様に用いることは難しい.弱陽性例に対してコントラストを増強するための増感剤の開発などさらなる研究が望まれる.
利益相反なし