症例は66歳女性.臍周囲痛および腹部膨満感のため来院した.注腸造影において, 回盲部に腫瘤陰影をみとめ, また, 回腸末端部も伸展不良のため, 回盲部腫瘍の診断のもとに手術を施行した.腫瘍は回盲部を中心に一塊となり, 腹腔内リンパ節も腫大, 癒合し, 悪性腫瘍と考えられたが, 根治手術不能のため, 腫瘍剔出術だけにとどめた.術後の組織診により虫垂carcinoidと診断されたが, 5-HT, 5-HIAAは正常で, 術前もcarcinoid症候群は認められなかった.本症は近年いくつかの報告が散見されるものの, 比較的まれな疾患と考えられるため, carcinoidの今日的概念を含めて, 若干の文献的考察を加え報告した.