昭和医学会雑誌
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プラスチックに関する衛生学的研究
ポリスチレン容器・包装材料からのスチレンの食品への移行と異臭について
辰濃 隆
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1982 年 42 巻 6 号 p. 773-782

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抄録

最近, プラスチックからの溶出物, 例えば, 塩化ビニル, アクリロニトリル, ジメチルテレフタレートなどの原料モノマー, ジ-2-エチルヘキシルフタレートやアジペートなどの可塑剤, tert-ブチルヒドロキシトルエンやtert-ブチルアニソールなどの酸化防止剤その他多くの化合物に発ガン性, 突然変異原性, 催奇形成性などが見られることから, プラスチックを食品と直接触れるような使用を行った場合の安全性が懸念されている.ポリスチレン (PS) も食品と接触する機会の多いものであり, また他のプラスチックと異なり, 材質中に多くのスチレン (SM) を含んでいる.このPSをいろいろな性質をもつ食品の容器・包装材, 飲食器具などに用いた場合, 多量に材質中に残存するSMが内容食品に移行することが考えられる.PSには発泡させたもの (FPS) と非発泡のものがあり, 後者はPSそのままのもの, ゴム質を加えた耐衝撃性PS (IPS) などに細分される.食品と接触される機会の多いFPSおよびIPSの2種類を用い, 材質中のSM量といろいろな食品に移行するSM量との関連を検討し, PS中のSM量をどの程度に制限すべきかを, 現在までに報告されている毒性値を基礎に推定した.PSから内容食品にSMが移行する場合, 溶出による現象と容器壁から揮散するSMを食品が吸着する現象の2通りがある.前者の場合には食品擬似溶媒 (蒸留水, 4%酢酸, 20%エタノール, オリーブ油) を, 後者の場合には油揚げめんを用い, 室温または40°で, 90日または28日間放置し, 移行するSMをガスクロマトグラフ法によって定量した.試験の結果は, Fig.1~6に示す.これらの結果から, SMの移行は油脂や脂肪性食品, アルコール性食品の場合は酸性や中性食品より大きく, また, SMの揮散, 吸着といった経路でもSMの移行量は大きかった.食品へ移行したSM量を人間が1日にどの程度摂取するかを, PSからのSMの最大移行量を基に計算したところ, 液体食品では約3.8mg/日であり, 乾燥食品 (油揚げめん, 1日3回, 1ケ70g) の場合では約2.1mg/日であった.WolfらのSMの長期飼育実験の無作用量は133mg/kg体重/日 (ラット) であり, また現在のところ, SMには発ガン性などの特殊毒性は報告されていないところから, 今回用いたPSに含まれる程度のSM量の材料ならば, 食品の容器・包装材料として用いても安全性が確保できると考えられた.FPSには, しばしば異臭の問題が生じることから, SMなどの揮散によるのではないかと考え, 材質中のSMとその類縁化合物量と異臭の関連を検討したところ, その関連が認められ, 材質中のSM量, SMとその類縁化合物総量を一定値以下に制限すれば異臭の問題はなくなるであろうと推定された.

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