昭和医学会雑誌
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高齢者の手術侵襲に対する腎機能の変化
―とくにクレアチニンクリアランスおよび自由水クリアランスを中心として―
竹元 愼吾三浦 純一松田 哲郎片岡 徹
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1983 年 43 巻 6 号 p. 773-784

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抄録

高齢者では平常より加齢による腎機能低下ならびに体液量の減少が存在し, 手術侵襲に伴う術中, 術後の腎機能への影響が著しく, 術後腎機能低下に陥りやすい.今回, 高齢者における手術侵襲に伴う腎機能の変化を知る目的で, 開腹術施行症例 (51例) において術前, 術後のCcr, CH2O, Cr, BUNなどを経時的に測定した.症例において, 65歳未満非輸液群 (A群: 21例) をcontrolとし, 65歳以上を非輸液群 (B群: 15例) と輸液群 (C群: 15例) に分け, 3群で比較検討した.Ccrの術前値はA群: 74.1±36.5ml/min, B群: 54.6±15.5ml/min, C群: 57.6±13.8ml/min, であり, A群に比べB, C群では低値の傾向がみられた.術後の推移をみると, 3群とも術後下降し, その後時間の経過とともに次第に上昇した.しかしながら, A群とC群が術後12時間で術前値に復し, 比較的類似した経過をとったのに対し, B群では大幅に回復が遅延した.B群との間には術後3時間から12時間において有意差がみられた (p<0.05) .CH2Oの術前値の絶対値はA群: 0.81±0.49ml/min, B群: 0.52±0.31ml/min, C群: 0.57±0.35ml/minであり, A群に比べB, C群では低値の傾向がみられた.術後の推移をみると, 3群とも0に収斂し, その後時間の経過とともに次第に下降した.A群では術後0に収斂し, 術後1時間の絶対値は0.28±0.13ml/min (術前値の34%) まで低下したが, 術後3時間では絶対値は0.67±0.42ml/minと著明に回復し, 術後12時間で術前値に復した.一方, B群では術後0に収斂し, 術後1時間の絶対値は0.09±0.07ml/min (術前値の17%) まで低下し, 術後3時間で絶対値0.16±0.07ml/min.と多少回復の傾向がみられるが, 術前値への回復は大幅に遅延した.C群ではB群より回復がよく, 術後12時間で術前値に復した.B群とC群の間には術後3時間から12時間で有意差がみられた (P<0.05) .CcrおよびCH2Oは手術侵襲に対して著明な変動を示したのに対し, CrおよびBUNでは著明な変動はみられなかった.以上から, (1) 高齢者において手術侵襲による腎糸球体および尿細管機能への影響が強いこと, (2) 術前の輸液が術後の腎機能の保持に有利に働くこと, (3) 術前, 術後のCcrおよびCH20を経時的に測定することにより, 術後の腎機能の推移, 変化を早期に, 確実に把握することが可能なことが理解された.これらの結果は, 高齢者における術後急性腎不全の予知ならびに発生防止にきわめて重要な意味を持つものと考えられる.

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