昭和医学会雑誌
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トキソイドハブ蛇毒を用いたラ氏島出血および膵障害モデルの検討
大場 文夫細田 周二和田 裕子瀬戸 明浜本 鉄也神田 実喜男
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1984 年 44 巻 6 号 p. 801-809

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抄録

70%エチルアルコールその他により弱毒化されたハブ毒 (Trimeresurus flavoviridis flavoviridis) をマウス・家兎に静脈投与し, 主としてラ氏島をほぼ特異的に出血させる方法を実験病理学的に応用して, ラ氏島さらには膵腺房細胞に与える弱毒化ハブ毒の影響を検討した, 1) 本実験におけるハブ粗毒静脈投与では出血の主なる標的臓器は肺であり, 被験動物の多くは肺出血で死亡し, また膵には内分泌外分泌とも大きな影響を与えなかった.2) 特に70%エチルアルコールによる弱毒化ハブ毒投与では出血を起こす標的臓器は, 肺から膵のラ氏島へと選択的に移行した.3) アルコールトキソイドハブ毒のラ氏島に出血を引き起こす毒量は, 22g±2gのマウスに対して1.00mg~2・00mgで, これより多ければ死亡, 少なければ出血には至らずに終わった.4) さらに0.50mg/1マウスという低濃度投与群においては, ラ氏島には全く出血は認められなかったが, 膵腺房細胞には比較的広範な空胞変性及び空胞化が認められ, この空胞をPAP法にてAmylase染色をしてみると陽性に染まることが多く, 免疫組織化学的にはハブ毒は膵過分泌を誘導することが示唆された.5) 家兎において血中Amylaseは最高2.6倍程上昇し, Amylase分画はP型が優位であり, 弱毒化ハブ毒は血液生化学的にも膵外分泌部に相当な障害を与えていることが示唆された.6) 文献的にハブ毒はHR・1, HR-2という二種の出血因子を有することが知られているが, これらには細胞毒性がないといわれており, 膵腺房細胞の退行性病変は, 細胞毒性を有するハブ毒のもつプロティナーゼの影響が考えられた.7) 以上の点から, 弱毒化ハブ毒を用いた膵障害モデルは, 今後ハブ毒の出血因子に着眼すればラ氏島出血, 細胞毒性のあるプロティナーゼに着眼すれば細胞障害性の各々の膵障害モデルに利用出来るのではないかと考えられ, 実験的膵障害モデルの開発の上で価値があると思われる.

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