昭和医学会雑誌
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豚蛔虫 (Ascaris lumbricoides var. suum) のヒストンに関する研究
張 良摂
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1984 年 44 巻 6 号 p. 811-819

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抄録

ヒストンはDNAと共にクロマチンの主成分をなし, 有核細胞内にはほぼ等量含有されている.ヒストンは塩基性蛋白質で分子内のリジンとアルギニンの比により分子量約10, 000-20, 000の5種類の分画 (H1, H2A, H2B, H3およびH4) に分類されている.ピストンはDNA二重鎖の深い溝に沿い規則的に配列し, DNAの燐酸基と静電気的に結合しDNA分子の生理的機能を調整していると考えられている.上記ピストンの5分画中H4の一次構造は如何なる蛋白質分子でもほぼ同様であるのに反し, H1は生物の種により著しく相違するため, その生理的意義が注目されている.
本研究ではこれまで余り知られていない豚蛔虫 (Ascaris lumbricoides var.suum) のピストンが高等生物のそれとどの程度類似しているかを検討した.豚蛔虫の筋肉を0.32Msucrose-3mMMgCl2溶液で1: 10のhomogenateを作成し, 遠心分離により得た核分画を出発物質としてピストンの抽出を行った.これを0.25NHCIで抽出し総ヒストンを得, 次いで過塩素酸, エタノールおよび塩酸等の添加により前述のヒストン5分画を逐次抽出した.これらの分画がH1-H4に相当することをアクリルアミドゲル電気泳動のパターンより確認した.従って豚蛔虫は高等生物と同様にH1-H4の5分画を含有することが明らかになった.これら5分画を合せた総ヒストンのアミノ酸組成を検討した結果, その組成は仔牛およびマウス胸腺および肝臓の場合と殆んど同様であった.またリジン/アルギニン比でもほぼ同様の結果が得られた.一方, 蛔虫のDNA含量は高等生物の約半分に過ぎず, 従ってピストン/DNAの比は高等生物の約2倍となりこの値は今迄報告された多くの結果と著しく相違した.また5分画の総ヒストンに対する割合はそれぞれ27, 8.8, 44.8, 5.4, 4.0%で, これは高等生物でみられる各々一定の割合に比し著しく特異的である.即ちH1およびH2Bの含量は高等生物の約2-3倍で, 反対にH2A, H3およびH4では著しく低い.この分画のもう一つの特徴は他の生物ではごく稀にしか見られないメチオニンを比較的多く含有していることである.
今回の研究により豚蛔虫は高等生物と同様にヒストンの5つの分画を皆含有しているがその含量の割合は著しく異なることが明らかになった.また蛔虫では他の生物の場合と同様にH4分画の強い類似性とH1分画の生物種による相異も観察されたが, 総ヒストンのアミノ酸組成およびリジン/アルギニン比は高等生物の場合と驚く程一致していた.この結果はヒストンが多くの生物種においてきわめて高い類似性を示す蛋白であるとの結論を強く支持している.

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