昭和医学会雑誌
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ブタ蛔虫分枝鎖アミノ酸アミノ基転移酵素とそのアイソザイムに関する研究
河 昌宇
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1984 年 44 巻 6 号 p. 821-829

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抄録

各種アミノ酸のうち, ロイシン, イソローイシン, バリン等の分枝鎖 (branched-chain) アミノ酸の分解過程の第一段階, すなわちアミノ基転移反応に関与するBranched-chain amino acid aminotransferase (EC2.6.1.42) は多くの臓器に含まれている.本酵素は主に非肝臓器に分布し細胞内局在性は主として可溶性分画とされている.またこの酵素にはアイソザイム (isozyme I~III) が存在し, 例えば癌化に伴いそのうち皿型が著明に出現することが知られている.本研究ではこれまであまり知られていない豚蛔虫 (Ascaris lumbricoides var. suum) 中の本酵素の細胞内局在性, 酵素化学的性質, アイソザイムの存在等の検討を行ない他の生物での成績と比較検討した.実験ではまず雌の豚蛔虫のホモジネートを作成し, 続いて常法に従い遠心分離によりミトコンドリアと上清分画とに分離した.上清分画はさらに酸沈殿, 硫安分画, 塩析等の操作を行ない得られた標品のDEAE-celluloseカラムクロマトグラフィーによる溶出パターンよりアイソザイムの検出を行なった.蛔虫の腸管, 卵巣, 筋肉では比較的高い本酵素活性が認められ, 前2者の場合ロイシンで最大の活性が得られたが, 筋肉ではむしろバリンで活性が高く, 臓器による基質特異性の差違が認められた.細胞内局在性はいずれも主として上清分画に認められたが筋肉ではこの場合も前2臓器ほどの著明な局在性は認められなかった.本酵素は比較的熱に不安定で, 例えば50℃, 5分間の熱処理により約90%の酵素活性の失活がみられた.至適pHはいずれも8.5附近でこれらの成績はラット心臓での結果とよく一致する.メルカプトエタノールとピリドキサール燐酸の添加による本酵素活性への影響を検討したところ, 両者の添加により著明な活性の増加がみられた.卵巣および筋肉ではアイソザイムのうち1型のみの存在が確認されたが, 腸管ではこれに加えてこれ迄齧歯類 (例えばラット) の肝臓にのみその存在が知られているII型の存在が確認された.しかし, いずれの臓器でも癌化に伴い著明に出現するIII型アイソザイムの存在は確認出来なかった.
以上の成績は分枝鎖アミノ酸の主要代謝臓器が肝臓以外の筋肉組織であるとの高等動物の成績とよく一致する.蛔虫腸管に分枝鎖アミノ酸のうち特にロイシンのみを主に代謝するアイソザイムIIが存在する意義は目下不明である.しかし, ロイシンの酸化は他のアミノ酸の場合に比し効率よくATPを産生し, またロイシンはコレステロールの前駆物質β-ハイドロオキシン-β-メチルグルタールCoAへと代謝されるので, このアイソザイムの存在は蛔虫腸管での消化液や卵の作成と密接に関連している可能性が示唆される.

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