抄録
開心術中におけるCardioplegic solution注入の心筋保護効果を検討するために, 雑種成犬55頭を用いて, 主として心筋微細構造の変化から検討した.常温下大動脈遮断30分群ではミトコンドリアスコアは2.27±0.052と最高値を示し, 心蘇生後心機能も悪く, 不可逆性変化の進行がみられた.全身軽度低体温下に心臓局所冷却を行った例では, 90分間の大動脈遮断までは蘇生率, 蘇生後心機能も良好で, ミトコンドリアスコアも2.0以下におさえられた.しかし120分以上の大動脈遮断ではミトコンドリアスコアは2.0以上となり, 蘇生後心機能の不良例もあり, 十分な心筋保護は行われていないと判断された.軽度低体温下に心臓局所冷却を行い, さらにCardioplegic solutionを附加した例では, 120分間の大動脈遮断でもミトコンドリアスコアは1.415±0.035と低値を示し, Cardioplegic solutionを附加しない120分遮断例とは有意差をもって良好な心筋微細構造を示し, 蘇生後心機能も良好であった.また, 240分の大動脈遮断例においても, Cardioplegic solution附加は心筋保護効果のあることが示されたが, 蘇生後心機能は不良であった.Cardioplegic solutionの注入は速やかな心筋温の低下と心停止が得られ, また平均した心筋の低温化の得られることにより, 心筋微細構造の変化の進行を阻止しえたものと考えられた.しかし本法も注入間隔を90分間とした場合には保護効果は認められなくなり, さらに注入間隔を短縮することにより, その効果は増強することも証明しえた.以上の結果から全身軽度低体温下に心臓局所冷却法にCardioplegic solutionを併用する心筋保護法は有効な方法であり, 本実験からは120分までの連続大動脈遮断も可能であることが示された.