昭和医学会雑誌
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誘発電位から検索した針麻酔の鎮痛の経穴と非経穴の区分と鎮痛抑制系との関係
菱田 不美羅 昌平大久保 欣一武重 千冬
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1986 年 46 巻 1 号 p. 35-43

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抄録

ラットの足三里の経穴部に相当する前脛骨筋の低頻度刺激では鎮痛が出現するが, 非経穴部の腹筋の刺激では鎮痛は出現しない.しかし視床正中中心核外側部 (L-CM) や視床下部後部の一部 (I-PH) を局所破壊すると非経穴部の刺激でも鎮痛が出現するようになるので, これらの部位は非経穴部刺激による鎮痛に対して鎮痛抑制系として働くことが明らかにされている.また経穴部刺激による鎮痛は中脳中心灰白質背側部 (D-PAG) の局所破壊で, また非経穴部の刺激による鎮痛は中脳中心灰白質の外側部 (L-PAG) の局所破壊で出現しなくなることも明らかにされているので, これらの現象を経穴部, 非経穴部の刺激でD-PAGやL-PAGに現われる誘発電位で検索し, さらに鎮痛抑制系からの抑制機序も誘発電位で検討した.D-PAGからは経穴部の刺激でのみ, L-PAGからは経穴部, 非経穴部両者の刺激で誘発電位が出現した.経穴部刺激でD-PAGに誘発電位をひきおこす閾値は, L-PAGのそれにくらべて有意 (p<0.05) に低く, LPAGに誘発電位を出現させる経穴部刺激閾値は非経穴部刺激にくらべて有意 (p<0.001) に低かった.L-PAGの誘発電位は鎮痛抑制系のLCMや1-PHに連続的に刺激を与えると, 刺激の期間中抑制された.ただし, この抑制はL-PAGの誘発電位の記録電極がL-PAGの吻側部にある時で, 尾側部にある時は抑制されなかったので鎮痛抑制系からの抑制はL-PAGに加わっていることが明らかとなった.L-CMやI-PHからは経穴部, 非経穴部の刺激で誘発電位が出現し, 刺激閾値は非経穴部刺激の方が経穴部刺激にくらべて有意 (p<0.01) に低かった.1-PHの刺激によるL-PAGの誘発電位の抑制はL-CMが破壊されている時には出現しなかったので, 鎮痛抑制系の中枢経路は経穴部, 非経穴部を出てI-PHに到り, LCMを通ってL-PAGに到っていることが判明した.経穴部, 非経穴部に1Hzの刺激を連続して与えていると, L-PAGの誘発電位は次第に減少し, 刺激開始後十数分で完全に出現しなくなった.一方, 経穴部の刺激で現われるD-PAGの誘発電位にはこのような抑制はみられなかった.L-PAGの誘発電位の経時的な抑制は, L-CMを局所破壊しておくと出現しなくなった.以上のような結果から, 経穴部, 非経穴部の刺激ではLPAGを通る経路と鎮痛抑制系とが同時に活動し, 刺激を重ねているとL-PAGには誘発電位が出現しなくなるが, 経穴部の刺激のみで出現するD-PAGの誘発電位は抑制されないので, 経穴部の刺激でのみ鎮痛が出現し, 非経穴部の刺激では鎮痛が出現しないことになる.したがって経穴部と非経穴部は中枢経路で区分できることが誘発電位の上からも明らかとなった.

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