抄録
皮膚に分布するAβ線維の活動で得られる鎮痛効果を, 熱侵害性刺激によって誘起されたラットの尾逃避反射の潜時, 反射を引き起こす閾温度および逃避反射にあつかる筋放電などを同時に測定して検討した.後肢の足三里経穴に相当する部位に種々の刺激頻度でAβ線維が刺激される程度の強さの刺激を30分間適用すると, 筋放電は刺激期間中抑制され, 刺激中止後も40~50分間その効果は持続した.しかしこの場合, 潜時の延長と閾温度の上昇は認められなかった.筋放電の抑制の程度は, 刺激頻度が25Hzで最大となり100Hzではわずかに減少した.また, Aβ線維のみが活動する刺激強度の範囲では抑制の程度はほぼ同じであり, 刺激強度が強いと抑制効果はわずかに増大した.腓骨小頭で切断した総腓骨神経を三角波パルスで直接刺激し, Aβ線維が興奮する程度の強さで30分間刺激すると刺激の期間中筋放電が抑制され, 刺激中止後40~50分間は効果が持続した.この場合にも潜時の延長および閾温度の上昇は認められなかった.筋放電に対する抑制効果は, 後肢の足三里経穴に相当する部位の電気刺激によって誘起されたAβ活動電位の振幅と総腓骨神経の直接刺激によるAβ活動電位の振幅と総腓骨神経の直接刺激によるAβ活動電位の振幅とが等しい時はほぼ同じであった.後肢のAβ線維を刺激した時, 筋放電に対する抑制効果はオピオイドの拮抗剤のナロキソンで拮抗されなかった.前肢の合谷経穴に相当する部位のAβ線維が活動する強さで刺激した時, 筋放電は30分の刺激期間中抑制され, 刺激中止後も50~60分間後効果が認められた.しかし, 後肢刺激の場合と同様に潜時の延長と閾温度の上昇は認められなかった.前肢のAβ線維刺激による筋放電の抑制はナロキソンによって拮抗された.以上の結果から, 皮膚に分布するAβ線維を刺激した時, 尾逃避反射の潜時の延長 (閾値の上昇) と反射活動 (筋放電) の抑制とはそれぞれ別個に出現し, Aβ線維が活動する程度の刺激では反射活動のみが抑制され, 潜時の延長から推定される鎮痛効果は出現しないこと, また, Aβ線維の活動による反射活動の抑制は末稍の刺激部位によって異なり, 熱侵害性刺激を与えた部位近傍の後肢刺激による抑制にはオピオイドは関与しないが, 遠隔の前肢刺激による抑制効果にはオピオイドが関与することが判明した.