昭和医学会雑誌
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胃癌における浸潤増殖様式 (INF) に関する臨床病理学的検討
廣本 雅之片岡 徹河村 一敏河村 正敏
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1987 年 47 巻 6 号 p. 883-898

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抄録
癌腫病巣辺縁部の浸潤増殖形態, すなわち「胃癌取扱い規約」における浸潤増殖様式Infiltrative growth (INF) は, 原発巣成立後の発育進展に大きく関与し, 胃癌切除患者の予後を左右する重要な因子の一つと考えられる.今回著者らは, 胃癌治癒切除症例でINFの予後への関連, ならびにINFと胃癌切除後の予後を左右すると考えられる因子, すなわち年齢, 性, 胃癌の肉眼所見として占居部位, 肉眼型, 大きさ (長径) , 組織所見として深達度, 組織型, リンパ管侵襲, 静脈侵襲, リンパ節転移, 間質量, 組織学stageの12因子との関連およびINFと再発形式との関連について臨床病理学的検討を行った.さらに症例を浅層群 (A群: m, sm, pm) と深層群 (B群: ss, s (+) ) の2群に分け, 深達度によるこれら関連性への差異についても併せて検討した.教室における過去約26年間 (1956.3-1981.12) の単発胃癌治癒切除症例740例を今回の対象とした.対象症例のINFの内訳は, INFα105例 (14.2%) , β323例 (43.6%) , γ312例 (42.2%) であった.検討の結果, 累積5年 (10年) 生存率は, 全症例: INFα64.9% (48.3%) , β55.9% (44.7%) , γ53.5% (42.2%) , 群別ではA群: α74.9% (64.9%) , β72.8% (60.9%) , r89.4% (77.9%) , B群: α56.1% (34.5%) , β41.8% (31.6%) , γ31.5% (21.0%) であった.全症例では5生率でINFγに比べαの予後が, A群では5生率でα, βに比べγ, 10生率でβに比べγの予後が, またB群では5生率, 10生率でγに比べα, βの予後が良好であり (p<0.05) , 深達度によりINF別生存率に差があった.INFと予後因子との関連では, 肉眼型, 組織型, 脈管侵襲, リンパ節転移, 問質量: など, 多くの因子との問に特徴的な関連性を認めた.再発症例で再発形式別に再発率 (INF別再発症例数/INF別症例数) を算出すると, A群ではINFα (8%) , β (9.0%) の肝再発率が高かった.B群の再発率はA群に比べて特にINFβ, γで高くなり, αで肝再発 (12.7%) , βで肝再発 (13.5%) , 腹膜再発 (11.2%) , リンパ節再発 (6.2%) , γで腹膜再発 (32.6%) , リンパ節再発 (7.8%) , 肝再発 (6.2%) , 肝下部再発 (4.1%) の再発率が高かった.深達度により各INFの再発への関与に差異があった.またINFrr3はα, γの中間的な再発状況を示し, INFと再発形式との相関がみられた.今回の検討で, INFは胃癌の発育様相に大きく関与し, 胃癌の生物学的特性をよく表していることが確認された.すなわち, INFと予後因子間の特徴的な相関性, 間質量とともに胃癌切除後の予後および再発への深い関連性が理解された.したがって, 胃癌切除後の組織学的検索によるINFの把握は, 予後を的確に予知する, あるいは術後補助療法を選択するに当り, 重要な意味を持つことが示唆される.
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