昭和医学会雑誌
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急性心筋梗塞における心原性ショック合併例の臨床的検討
―改善群と不良群の対比―
後藤 英道中島 明彦井上 紳山田 斉岩崎 俊作長谷川 貢小林 正樹藤巻 忠夫新谷 博一
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1988 年 48 巻 3 号 p. 315-325

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抄録

CCUにおける治療の進歩により, 急性心筋梗塞の死因としての不整脈死, 心不全死は減少傾向にある.しかし, 重篤な循環不全を呈する心原性ショックによる死亡は明らかな改善が認められず, 現在の心筋梗塞の診療上の問題点である.この点より, われわれは急性心筋梗塞に合併する心原性ショック例について, カテコラミン製剤を中心とする治療によりショックから離脱し得たか否かにより, 改善群と不良群に分け, その臨床病態の差異について検討した.さらに現在, 心原性ショックに対する内科的治療として有力な大動脈内バルーンパンピング法の適用についても検討を加えた.対象は昭和52年8月から61年12月末日までの期間に当科CCUに入院した急性心筋梗塞481例中, Myocardial Infarction Research Unit (MIRU) の心原性ショックの診断基準により判定した50例 (10.4%) で, 改善群は31例, 不良群は19例である.不良群では高齢者, 前壁を含む広範囲な梗塞, 早期収容例, 梗塞発症からショック発症までが早い例, 梗塞の進展または再発作を認める例が多かった.ショック時の心不全の程度では, 不良群で肺野の50%以上に肺ラ音を聴取する重症例が有意に多かった.ショック時に測定された血行動態指標値の対比では, 不良群で心係数, 一回拍出係数一回左室心仕: 事係数は有意に低く, 左室拡張末期圧を反映する肺動脈楔入圧は有意に高いことを認め, 不良群では重症の心機能低下例が多いことを示していた.このため, 末梢循環不全の一徴候である時間尿量も有意に減少していることを認めた.Dopamine, dobutamineなどのカテコラミン製剤の投与開始までの時間, および治療開始用量は両群間で差は認められなかった.大動脈内バルーンパンピング法を使用せずに心原性ショックから離脱し得た改善群21例のカテコラミン製剤の有効投与量は10.6±6.2μ9/kg/分であり, 急性心筋梗塞に合併した心原性ショック例に対しては, dopamineあるいはdobutamineの10μ9/kg/分前後の投与によって, ショックの改善が認められない例に対しては, 速やかに大動脈内バルーンパンピング法を行うことが, 治療上重要であると考えた.

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