昭和医学会雑誌
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消化器手術侵襲における腎機能の変動
―α1ミクログロブリンを指標として―
松田 哲郎片岡 徹桜井 俊宏
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1988 年 48 巻 5 号 p. 565-574

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抄録
α1-microglobulin (α1m) は分子量33.000の低分子糖蛋白質であり, 腎機能障害を伴う各種疾患を有する患者で検討した結果, 腎機能障害をチェックする指標としてきわめて特異的であり, 早期の腎機能障害を的確にとらえることができると報告されている.諸家により開腹術後に一時的な腎機能低下が起こることが指摘されているが, 消化器手術症例を対象に術前術後にα1mを指標として測定した報告はない.今回著者らは, 術前に腎機能障害を認めなかった消化器手術症例43例を対象として, 術前術後に血中α1m (s-α1m) , 尿中α1m (u-α1m) および他の腎機能チェックの代表的な指標を経時的に測定し, 術後に腎機能を把握する指標としてs-α1m, u-α1m測定の有用性を検討した.s-α1mは糸球体濾過量の減少を反映して上昇するが, 著者らの成績ではGFRの指標であるクレアチニンクリアランス (Ccr) と常に負の相関は示しはするが, 術後一時的に低下する傾向がみられ, その変動からは術後の腎機能障害発生をとらえ難く, 指標としての有用性はないと推測された.u-α1mは尿細管機能障害を反映して上昇するが, 今回の検討において, 術後に尿細管機能障害が発生したと考えられる術後3時間で上昇はピークに達し, 術前値の6.4倍の30.3±16.0mg/1を示し, 尿細管機能の回復に従って第7病日まで徐々に下降した.また, 尿細管機能障害の指標である尿中NAG (u-NAG) と術後3時間値, 第1, 5, 7病日値で有意な相関を認めたが, u-NAG上昇のピークは第7病日にあり, u-α1mの方がu-NAGよりも早期に尿細管機能障害をとらえやすいと推測された.u-α1mは尿中β2-microglobulin (u-β2m) と第1, 5, 7病日値で有意な相関を認め, ともに両者は尿細管機能障害をチェックする指標としての有用性は高いと考えられた.しかしながら, u-β2mは症例による変動幅が大きく, また悪性疾患, 感染症, 肝疾患などでも上昇する性質を持つのに対し, α1mは急性相反応物質の性格を持たず, きわめて特異的に腎機能障害を反映し, しかも検体保存も比較的容易という状況を考慮すると, 術後の尿細管機能障害の指標としてu-α1mの方がu-β2mより有用であると考えられた.糸球体濾過量の影響を除外するために算出したfractional excretion of α1m (FEα1m) の変動は, u-α1mの変動を反映して術後3時間で急上昇し, ピークに達し, その後徐々に下降し, 尿細管機能障害の指標として有用と推測ざれた.しかしながら, 他の指標と有意な相関がなく, また一般臨床に用いるのには計算も煩雑であり, 術後早期に尿細管機能障害をチェックする指標としてはu-α1mが最も簡便, 有用であることが示唆された.
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