昭和医学会雑誌
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光弾性実験による臼蓋形成不全の生体力学的研究
范 廣宇
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1988 年 48 巻 5 号 p. 629-638

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抄録
股関節の臼蓋形成不全に関する生体力学的研究は, 大腿骨骨頭側の生体力学的研究に比して極めて少ない.日本における変形性股関節症は, 臼蓋形成不全を有する先天性股関節脱臼後の二次性のものが多く, 臼蓋形成不全は軟骨の変性に始り, 進行すると臼蓋角の変化・大腿骨頭の形態の変化および頸体角の変化等の関節症変化を招来する.本研究は臼蓋角と大腿骨頸体角の変化および軟骨変性による股関節合力の変化を生体力学的に調べ, 臨床的所見と比較検討した.実験は, 正常成人および臼蓋形成不全を有する変形性股関節症患者の股関節正面X線像からモデルを採取し, 二次元光弾性実験を行い, Pauwelsの理論による数値解析を行った.結果は次の通りである.1) 正常大腿骨 (頸体角130゜) に対する正常臼蓋 (臼蓋角45゜) と臼蓋角50゜での正中荷重では, 股関節関節面での応力分布・応力集中はともに変化が見られなかったが, 臼蓋角55゜, 60゜では, 応力集中位置が臼蓋外側辺縁に移動し, 臼蓋角の増大 (45°, 50°, 55°, 60°) にともない股関節合力の増大が見られた.2) 臼蓋形成不全の経過にともなって起る軟骨変性については, 軟骨の厚さが半分になっても応力の分布および集中に変化はみられないが厚さが0になると応力は集中し応力値が前者の2.5倍にもなり, 応力集中の際の最大応力値は, 僅かな厚さの軟骨の存在によっても減少することが解った.3) 大腿骨頸体角の変化 (110゜, 130゜, 150゜) による股関節合力の変化は, 頸体角の減少 (110゜) により約10%の減少を見, 頸体角の増大 (150°) により約10%の増強を見た.頸体角の増大は骨頭中心と大転子の外転筋付着部の水平距離を減少させ, テコの理論における外転筋側のウデの長さが短くなり, 関節合力の増大をもたらすことが解った.4) 臨床的には, 臼蓋形成不全症例の自然経過を見ると, 臼蓋角の増大と軟骨変性による軟骨の厚さの減少が見られる.これらに対して, 田川の考案した寛骨臼回転骨切り術を施行すると, 接触面積が増大し, 応力分布位置が軟骨変性の少ない部分に移るため, 応力集中の値の減少が期待され, 形態上からも関節面の適合状態が改善される.大腿骨頸体角増強に対しては, 転子問骨切り術により外転筋力の方向が変化し, 股関節合力の減少が得られる.臨床的には, これらの術式により臨床症状の改善が認められた.
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