昭和医学会雑誌
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アルコール多飲者における膵の線維化・脂肪化について ―光顕的・電顕的および組織計測学的検索, 胆石症・膵頭部癌例との比較―
田中 房江
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1989 年 49 巻 3 号 p. 221-229

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抄録

アルコール多飲者の膵を観察することによって膵の線維化・脂肪化の発生進展経過と慢性アルコール性膵炎との関連性について考察した.アルコール多飲者 (ア群, エタノール換算80g/day, 10年以上) 65例, 対照として胆石症 (胆石群) 48例, 膵頭部癌 (膵癌群) 17例の膵につき光顕的・電顕的および組織計測学的検索を行った.組織計測学的にはpoint counting methodに従って実質細胞占拠率, 線維占拠率, 脂肪占拠率を求めた.また, 膵線維化, 脂肪化の程度により軽度のものから0, I, II, IIIに分類し, それらの占拠部位より小葉内優位であるものをA型, 小葉内・小葉間が同程度であるものをAB型, 小葉間優位であるものをB型と分類した (0型, IA型, IAB型, IB型, IIA型, IIAB型, IIB型, III型) .なお, 著しい線維化・脂肪化例は基本構造の破壊がみられ, 部位分類は行なわず単にIII型とした.ア群ではprotein plugが15例, 23.1%に, 腺房腔の拡張・腺房中心細胞と小膵管の増生が41例, 63.1%に認められ特徴的であった.膵線維化はIIA型 (22例, 33.8%) ・IA型 (13例, 20%) とA型が多く, 小葉内優位に線維が進展し, 最終的に膵硬化像ともいうべきIII型へ進展すると考えられた.ア群の初期線維化病変であるIA型では小膵管周囲の他, 小血管周囲, 腺房周囲にも線維化が認められた.電顕的には小膵管周囲には線維芽細胞 (fibroblast) , 小血管周囲には周細胞 (pericyte) , 腺房周囲には脂肪摂取細胞 (fat-storing cell) 類似の未分化な問葉系細胞が観察され, 小葉内の線維化にはこれらの細胞が関与していることが示唆された.ア群のうち膵石合併例 (9例) では膵実質細胞の萎縮 (占拠率62.5%, 非有石群は71.3%) と小葉間線維化がより目立った.特に小葉管周囲の線維化が強く, 膵石による膵実質障害が肉芽組織の増生を促し, 膵硬化の加速因子となる可能性がうかがわれた.胆石群はア群に比べ小葉内の線維は少なく, むしろ小葉問脂肪化が目立った.また, 巣状の急性炎症病変が散見され肉芽組織を伴っており, これが線維化に関与していると考えられた.膵癌群では著明な小葉間線維化がみられ, 実質細胞の脱落壊死に伴い肉芽組織を介して線維化に至ることがうかがわれた.膵脂肪化はいずれの群でも小葉間が優位で, 小葉外に存在する脂肪組織が実質の脱落に伴って小葉内へ浸潤し置換すると考えられた.今回の検索の範囲では, 膵線維化と年齢には関係が認められず, 膵実質細胞は加齢に伴って減少し, 膵脂肪は増加する傾向にあった.

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