昭和医学会雑誌
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急性心筋梗塞における心原性ショックの臨床病理学的検討
―抗ミオグロビン抗体による免疫組織学的研究―
大塚 敏彦田代 浩二橘 秀昭酒井 哲郎井上 紳
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1990 年 50 巻 3 号 p. 243-251

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抄録

CCUの普及に伴い心筋梗塞における不整脈死は激減したが, 心原性ショックおよび重症心不全などポンプ失調死は相対的に増加した.今回, われわれはポンプ失調, 特に心原性ショック死の成因に対し臨床病理学的に検討した.特に組織学的には発症後1時間で脱失が開始するとされるミオグロビンの動態を酵素抗体法を使用し, 心不全死, 心破裂および中隔穿孔例と比較検討した.対象は当院CCUにおいてMyocardial Infarction Research Unitの心原性ショックの診断基準をみたした剖検心26例および心不全死25例, 対照として心室自由壁破裂26例, 中隔穿孔14例を使用した.方法はホルマリン固定後の剖検心を計測後, 心尖部から1cmごとに水平割面を作製, 弁輪下3分の1での梗塞巣の広がりを検討した.梗塞巣の確認はH-E染色PTAH染色等に加え, 抗ミオグロビン抗体を使用し, ABC法により染色した.ミオグロビンの脱失および残存は, 完全あるいは不完全脱失および残存域として区分し, 心筋各部の虚血域を半定量的に解析した.各群間で年齢, 性別に有意差はないが, ショック群は入院時よりForrester分類H-III, IVが86.7%を占めるのに比し, 心不全群はH-I, IIが56%を占め, 以後心不全が進行し死亡する.心重量は中隔穿孔群が他群に比し有意に重かった.冠動脈硬化度は心不全群で3枝病変が最も多く, 破裂群では最も少ない.血栓発見率は破裂92.3%, 穿孔群85.7%で高率であるが, ショック群65.4%, 心不全群56%と低い.再発性梗塞はショック群57.7%, 心不全群60%, 破裂群7.7%, 穿孔群28.6%であった.抗ミオグロビン抗体による免疫組織学的検討では, ショック群は53.8%にH-E染色で虚血巣が不明瞭であった右室自由壁にミオグロビン脱失を認め, 心室中隔を主体とした両室におよぶ大型梗塞が多いのに比し, 心不全群は貫壁性および非貫壁性梗塞からなる左室全周性梗塞として認められ, 右室の虚血巣は12%のみに認めた.近年増加傾向にある心内膜下梗塞は心不全群に多いが, プルキンエ細胞を除きほぼ貫壁性のミオグロビンの脱失を認めた.以上より, ショック群では右室心筋のミオグロビン脱失が心不全群より高率であり, 右室機能不全も示唆されたが, 心不全群は貫壁性および非貫壁性からなる左室全周性梗塞として認められた.心原性ショックの成因として左室梗塞量のみでなく, 右室心筋の関与に関しても再評価が必要と思われた.

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