昭和医学会雑誌
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精神分裂病者の長期在院に至る生物、社会学的要因に関する研究
―その福祉的援助のあり方について―
延山 雅彦奥山 清一志村 豁遠山 哲夫
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1990 年 50 巻 3 号 p. 252-263

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抄録

烏山病院において1989年7月31日現在, 在院中の分裂病424例のうち経過年数10年以上, 最終在院年数3年以上, 60歳未満の定型群に該当する194例について, 実態を調査し, 長期在院化する要因を考察した.対象をA群 (心身の症状による退院困難群) , B群 (退院可能群) に2分し両群に共通する, 疾患に基づく個体的要因の指標として, 精神症状と社会生活能力を評価し, 社会適応状況による総合評価を加え考察した.B群の退院を阻む社会的要因の指標として家族の形態・受容力・態度, 患者の年金・手当等の受給状況, 在宅事情等の実態を調査し問題点を抽出した.更に両群の今後のリハの在り方と対策について考察した, 1.A群の精神症状, 社会生活能力の平均評価点は, いずれもB群より有意に高く, 精神的・社会的欠陥が高度であることを示しており, 社会適応度も有意に悪く, 要保護群を中核に分布している.この群は予後不良群によって構成されており, 個体的要因を主因とする長期在院群であるといえる.B群の精神症状, 社会生活能力の平均評価点はA群より有意に低く, 精神的・社会的欠陥は中程度であり, 社会適応度も有意に良く, 中間安定群を中核に分布している.この群は予後中間群によって構成されており, 個体的要因を副因とし社会的要因を主因とする長期在院群といえる.2.B群の長期在院の主因である社会的要因を分析した結果, (1) 家族の態度は比較的良好だが受容能力は, 親の他界, 高齢化, 欠損家族の増加, 同胞の核家族化等により低下し, 引き取る家族が激減していること, (2) 患者は年金・手当の受給により経済的に自立している例が多く, 家族が引き取らなくなる遠因になりうること, (3) 住宅事情は極めて悪く, 精神障害者であるがゆえに住居を借りることが困難なこと等, 解決の困難な課題が改めて浮き彫りにされた.3.両群とも就労, 自立を目的とするリハの適応例は減少しており, 今後A群は緩やかなリハによる欠陥の進行および老化の予防を図ることが重要となる.B群は生活技術指導の必要性が高く, 社会生活に必要な基礎的技術の習得と生活習慣の回復を目的とする援護寮, 福祉ホーム, 救護施設等での生活訓練を要する者が多い.更にその延長線上に位置する定住施設としての各種の住宅を提供することにより, 家庭を喪失しつつある精神障害者の精神科医療と社会福祉によるリハの体系が完成する.

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