昭和医学会雑誌
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低酸素性脳障害における脳内過酸化脂質の変動ならびにVitamin Eの効果に関する実験的研究
小井土 玲子新里 勇二須永 進
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1992 年 52 巻 1 号 p. 1-8

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抄録

ICR系マウス新生仔を用い, 日齢0で低酸素負荷を行ない, その後の脳発育や脳組織中のVitamin Eおよび過酸化脂質に及ぼす影響を生化学的に検討した.さらに低酸素負荷前にVitamin Eの投与を行ない, 低酸素性脳発育障害に対するその予防効果を検討し以下の結果を得た.1.低酸素負荷後の脳湿重量, 総DNA量, 総RNA量, 総蛋白量は, いずれも対照群より若干の低値を示し, 特に日齢15に目立ったが, 日齢21ではcatch upを認めた.脳組織中Vitamin E濃度は, 負荷直後に著減し (対照群値の約1/3) , 以後加齢による増加はみられなかった.脳組織中の過酸化脂質量は負荷直後に推計学的に有意な高値 (非負荷群の約3倍) を示し, その後も対照群より高い値で推移したが, 推計学的有意差は認めなかった.2.Vitamin E投与により, 低酸素負荷マウスの脳の総DNA量, 総RNA量, ならびに総蛋白質量は, いずれも非投与マウスに比べ早いcatch upを示した.また, 低酸素負荷直後の脳組織中の過酸化脂質量は対照群より有意に高いが (対照群値の約2倍) , Vitamin E非投与群より低い傾向 (平均で約1/4の減少) を示し, その後も同様な傾向で推移した.以上のことから, マウス新生仔期の低酸素負荷は負荷後に脳組織中の過酸化脂質の増加とVitamin E濃度の減少ならびに一過性の脳細胞増殖障害と脳蛋白質合成障害を引き起こすことが証明された.これらの事実から, 低酸素症による脳組織障害の病因の一部にfree radicalの関与による脳細胞機能障害が推測された.また, 低酸素負荷前にVitamin Eを投与されたマウスでは, 負荷による脳組織中の過酸化脂質増加に若干の抑制がみられ, 脳生化学的構成成分に対する大きな影響は認められなかったが, Vitamin E投与は低酸素性脳組織障害をある程度防御する効果をもつ可能性があると考えられた.

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