昭和医学会雑誌
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経穴・非経穴刺激による鎮痛の刺激時間による変化
豊田 泉武重 千冬
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1992 年 52 巻 1 号 p. 16-22

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抄録

低頻度 (1Hz) の経穴 (足三里の前脛骨筋) の刺激, 及び鎮痛抑制系 (視床正中中心核外側部, L-CM) を局所破壊した後非経穴部 (腹筋) の刺激で出現する鎮痛は, 刺激終了後も鎮痛が持続する後効果が現われる.後効果の出現には, 経穴・非経穴の刺激で下垂体から遊離されるβ-エンドルフィンやACTHが関与すると考えられるが, 視床下部弓状核において, 鎮痛を発現する求心路と遠心路を連絡するドーパミン・シナプスにこれらの物質はシナプス前性に働くことが明らかにされている.そこで鎮痛の様相, 特に後効果の現れ方と刺激時間との関係からシナプス前性に働くこれらの物質の作用方式を検索した.実験にはWistar系ラットを用い, 鎮痛は尾逃避反応の潜伏期の増加率とした.鎮痛抑制系の破壊はL-CMに径0.4mmのステンレス線を挿入する機械的破壊によった.経穴・非経穴の刺激は, それぞれ前脛骨筋と腹筋に2本の針電極を約10mmの間隔で挿入し, 筋が収縮する程度の強さの刺激を1Hzで与えた.経穴の刺激による鎮痛には有効性の個体差があるので, 有効群のみを用いた.刺激時間を5, 10, 15, 30, 45, 60, 120分として, 経穴及び非経穴刺激を与えると, 両鎮痛とも同じ様相で変化した.これらの変化は, 鎮痛の最大値が現われる時期と刺激時間の関係から, 三つの型に分類出来た.すなわち, 刺激終了後に鎮痛の最大値が現われるI型, 刺激終了時に鎮痛の最大値が現れ, その値がしばらく持続するII型, 鎮痛の最大値が刺激中に出現するIII型である.刺激時間45分で鎮痛の最大値が現れ, それ以上刺激時間を長くしても鎮痛の増大は現れなかった.45分間の刺激を与え15分停止する間欠的な刺激を3回行って得られた鎮痛と, 持続的に同時間刺激を与えて出現する鎮痛との間にはほとんど差異はみられなかった.以上の結果から, 経穴・非経穴の刺激による鎮痛は, 後効果を発現する機序と鎮痛を持続する機序の二つによって出現し, 前者は経穴・非経の刺激による求心性のインパルスでドーパミン・シナプスに促通が起こり, シナプス前性に働くβ-エンドルフィンや, ACTHによってドーパミンが遊離して出現し, これは短時間の刺激で完成する.後者は下垂体から遊離されるβ-エンドルフィンやACTHの量には一定の限度があり, 鎮痛が最大になった後は, 鎮痛を持続するように働いていると考えられた.

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