昭和医学会雑誌
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腎梗塞を来たし緊急手術に至ったDeBakey IIIb型急性大動脈解離の一例
村上 厚文舟波 誠饗場 正宏山田 眞高場 利博李 雅弘
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1995 年 55 巻 6 号 p. 639-644

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抄録

DeBakey IIIb型急性大動脈解離は保存的に経過を観察する場合が多く, 手術適応症例は限られている.今回腎虚血の所見を呈したため緊急手術を施行したが, 術後も腹部内臓虚血のために死亡した症例を経験したので病理解剖所見を加えて報告する.症例は49歳の男性で, DeBakey IIIb型急性大動脈解離例の経過観察中, 腎梗塞の所見を呈した.左鎖骨下動脈直下にエントリーを有し, 巨大仮性腔は左腸骨動脈領域まで達し, 腹部大動脈主要分枝の血流は狭小化した真腔からの血流で保たれ, リエントリーは右腸骨動脈起始部付近に存在すると考えられた.左大腿動脈穿刺でバルーンカテーテルによる真腔, 仮性腔問に開窓術を試みたが改善は無く, 発症後10日目に, エントリー閉鎖を目的とした緊急手術を施行した.V-Aバイパス下にknitted Dacron Graft 26mmによる下行大動脈人工血管置換術を施行した.しかし, 術後も腹部内臓虚血が進行し, 第15病日に敗血症から多臓器不全で死亡した.主な病理解剖所見は, 腸管の80%以上は, 壊死に陥り, 数ヵ所の小腸穿孔が認められ, グラフト末梢吻合部内径が小指頭大であった.仮性腔内の術後血栓形成はグラフト末梢部から腹腔動脈周辺まで形成され分枝血管の圧迫が推定されたが, 主要分枝の開口部はいずれも大きく動脈硬化性変化は認められなかった.これらから以下の知見を得た. (1) 狭小化真腔, 巨大仮性腔比や内臓虚血などの簡単で正確な診断方法の検討が必要である. (2) 本症例では, グラフト末梢部の狭窄による血圧低下と仮性腔の拡大による血流低下が腹部内臓器虚血の原因と考えられた. (3) 腹部主要分枝が真腔から出ている場合, 術式としては真腔の拡大をはかることが重要であるが, 積極的に腹部分枝再建を考慮すべきである. (4) エントリー閉鎖のみを行った場合, 術後も可及的に真腔と仮性腔 (偽腔) の比率を検索し, 仮性腔が拡大傾向に有る場合は拡大手術も考慮すべきである.

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