昭和医学会雑誌
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高齢障害者の移動能力における簡易評価法の開発とその有効性
―足踏みバランステストおよびつかまり立ちテストとの関係を中心として―
今泉 寛
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1999 年 59 巻 1 号 p. 73-86

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抄録

地域ケアや在宅介護に携わる者にとって, 高齢障害者に対する移動能力の評価法を確立し, 移動手段を確保することは, ケースのADLやQOLに直結する重要な課題である.そこで, 複雑な機器や方法に頼らず, バランス能力や下肢筋力を粗大評価する方法として, 足踏みバランステストおよびつかまり立ちテストを考案し, 移動レベルおよび移動動作との関係について検証を試みた.1) 対象は, 都下特別養護老人ホームおよび東京都新島村在住の高齢障害者, 男性27例, 女性78例, 計105例 (平均年齢80.2±8.4歳) である.2) 方法は, 足踏みバランステストおよびつかまり立ちテストを中心に, 13項目の検査測定を実施した後, 1年間にわたり移動レベル, 移動動作の自立度, 転倒の調査を行ない, 検査結果との関係を分析した.3) 結果, (1) 足踏みバランスとの関係では, 機能的移動レベルとの間でr=0.81, 実用的移動レベルとの間でr=0.75p<0.01の有意な相関関係を認め, バランスステージ4以上であれば杖歩行以上の実用的移動レベルとなる確率が高いことを示唆した.移動動作との関係では, 階段昇降動作との間でr=0.73, トランスファーとの間でr=0.61p<0.01の有意な相関関係を認め, バランスステージが高い程自立度も高くなる傾向を示した.開眼片足立ち時間との関係では, 利き脚片足立ちが2秒以上可能であるか否かが移動レベルと関係深いことが推測された. (2) つかまり立ち高さとの関係では, 階段昇降動作との間でr=0.73, 実用的移動レベルとの間でr=0.69, トランスファーとの間でr=0.64p<0.01とそれぞれ有意な相関関係を認め, 杖歩行以上の実用的移動が可能か否かは20cm, 安定した階段昇降が可能か否かは10cmのつかまり立ち高さがボーダーラインとなるものと思われた. (3) 転倒調査結果では, 足踏みバランスとの間に有意な相関関係を認め (r=0.68p<0.01) , 時間帯, 排泄行為, 痴呆の存在が密接に関わり合っていることが推測された. (4) 足踏みバランステスト, つかまり立ちテスト, 実用的移動レベルの間にはr=0.88p<0.01の高い相関関係を認め, 信頼度の高さを示唆する結果となった.以上の結果から, 足踏みバランステストとつかまり立ちテストは, いつでも, 何処でも, 誰にでも実施可能な簡便な評価法であり, 高齢障害者の移動レベルや移動動作の自立度を予測する手段として, 有用かつ妥当なものであると考える.

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