昭和医学会雑誌
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頚椎椎間孔と神経根の形態学的測定
吉田 泰雄
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2008 年 68 巻 1 号 p. 44-54

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抄録

本研究は頚部脊髄症と頚部神経根症の発症とその多彩な病型発現に頚椎および頚神経の解剖学的形態がどのような影響を与えているのかを明らかにする目的で, 頚椎椎間孔と後根糸の走行に着目し, 日本人頚椎標本の画像計測・肉眼的形態計測を行った.対象は平成17年度, 18年度昭和大学歯学部解剖用遺体から, 環椎から第一胸椎までを摘出した後, 筋肉などの軟部組織を切除し, 頚椎を全周性に露出した頚椎標本12体 (男性7体, 女性5体, 死亡時年齢48~93歳平均71歳) である.摘出された頚椎標本を, X線ヘリカルCTにて第1頚椎より第7頚椎までを, 空間分解能0.6mmでボリューム撮影を行い, DICOMデータとして保存した.DICOMデータをもとに, 椎体・椎孔・椎間孔に関する画像計測を行った.さらに頚椎標本の後根糸の肉眼的観察・計測を行った.頚椎標本の画像計測では, C5/6の椎間孔が最も狭く, 以下C3/4, C4/5, C6/7, C2/3の順であった.脊髄神経溝の前額断・水平断における角度は左右の有意差はなく, 前額断ではC3で約63゜, C4で約57゜, C5で約52゜, C6で約55゜であり, C5が有意に鋭角であった.水平断ではC3で約54゜, C4で約59゜, C5とC6で約63゜であり, C3に比べC5, C6が有意に鈍角であった.脊髄後根合流部の計測では, 横幅はC3からC6までが約7.0~7.5mmであり, C7で約6.5mmと有意に狭い値を示した.頭尾側幅は, C5で左右差を認めC3, C4, C6, C7, C8では左右差はなく, C3で約125mm, C4で約11.5mm, C5で約12~13mm, C6で約11.5mm, C7で約10.5mm, C8で約10mmであった.脊髄後根の椎間孔入口部から脊髄への上部の入射角はC3からC5にかけて徐々に鈍角になり, C6以下で徐々に鋭角になっていく.下部の入射角もC4, C5が鈍角で, C6以下では鋭角になっており, C4, C5の後根糸は硬膜内を斜走する距離が短い傾向を認めた.以上の結果から, 頚椎椎間孔の解剖学的形態や後根起始部の高位別差異が頚部脊髄症や頚椎症性神経根症の発症および多彩な病態発生に影響を与えているものと考えられた.

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