生体医工学
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ラットとカメの心室心筋細胞の引張特性の比較
氏原 嘉洋花島 章本田 威児玉 彩橋本 謙毛利 聡
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2018 年 Annual56 巻 Abstract 号 p. S346

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抄録

陸生の脊椎動物の心臓は冠循環の有無によって大別され,冠循環はエネルギー消費の大きな哺乳類と鳥類に採用されている。冠血管は他の血管と異なり,心臓が緩んだ拡張期にのみ血液が流れる。したがって,拡張期の過度な心室伸展によって血流が阻害されると,心筋細胞への酸素供給が遮断されてしまう.そのため,冠血管の血流を維持するために,冠循環を獲得した心臓は伸展性を制限する方向に進化した可能性がある。この仮説を細胞レベルで検証するために,現生する冠循環のない爬虫類のカメと冠循環のある哺乳類のラットの心室の心筋細胞の引張特性を調べた。単離した心筋細胞を比較したところ,ラットの細胞は,カメよりも肥大しており,サルコメア長は短かった。研究室で作製した引張試験装置を用いて,二本のマイクロニードルで細胞を把持し,細胞の長軸方向に引張負荷を与えた。細胞の大きさの違いを減ずるために,引張方向と垂直な細胞断面積で過重を除して,過重を正規化した。正規化過重とサルコメアのひずみ関係から算出した正規化スティフネスは,ラットの心筋細胞の方がカメよりも有意に高く,仮説と一致していた。脊椎動物の心臓が伸展性を制限する方向に進化した結果,我々の心臓は拡張機能障害による心不全を発症しやすくなったのかもしれない。

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© 2018 社団法人日本生体医工学会
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