生体医工学
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補助人工心臓及び血液透析の在宅利用のための医工学研究  -在宅人工臓器治療の普及を目指して-
木村 裕一
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2021 年 Annual59 巻 Abstract 号 p. 135

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抄録

本シンポジウムは、在宅での補助人工心臓及び血液透析治療に対する問題点を、臨床現場で実際にこれらに関わっておられる先生方からご説明頂いた上で、これらを解決するために必要となる医工学研究の有り様を具体的に検討することを目的とする。

背景は以下の通りである。

体内植込み型の補助人工心臓(Ventricular assist device, VAD)の発達によって、末期重症心不全患者が在宅で療養したり社会復帰することが可能となっている。最近では、移植を前提とせずVADのみで長期に渡り治療する長期在宅治療(Destination therapy, DT)の治験が終了し、承認間近となっている。一方で、末期腎不全患者を治療する血液透析についても、透析装置を患者宅に設置して治療を行う頻回透析や夜間就寝中の透析が可能となっている(在宅血液透析,Home hemodialysis, HHD)。以上の状況の下、該当する患者の治療効果やQOLが大きく向上していることは明確な事実である。

しかしながら、関連学会によるガイドラインによれば、何れも家族等による介助が前提となっていることから、在宅での人工臓器治療の適用性において大きな課題が存在する。

特にHHDでは有効性が明らかであるにも係わらず、その患者数は全透析患者数(約34.5万人)の僅か0.2%(760人)に過ぎない。この主たる要因として挙げられる介助者の前提は、少子高齢化および単身世帯が増加の一途を辿る我が国では極めて深刻である。

そこで、介助者を現在の1人からゼロに向けて下げていけるような在宅医療に纏わる医工学的な作り込みが求められている。

日本生体医工学会では在宅介護や高齢者医療のための、遠隔から生体情報を収集するための研究が進んでいることから、この技術を応用することで、在宅人工臓器治療の普及に資することが出来よう。加えて、在宅での人工臓器治療では、医療機関などによる遠隔からの管理が必要となるであろうことから、個人情報保護など、医療情報に纏わる法的な問題も解決していく必要がある。

これまでの学会としての取り組みは以下の通りである。

2020年11月に高知での第58日本人工臓器学会大会で、本課題に関する第1回の合同シンポジウムを開催した(セッションタイトル:「在宅医療と人工臓器の過去・現在・未来」)。続いて、学会内に専門別研究会 「在宅人工臓器治療研究会」を立ち上げると共に、日本人工臓器学会から、検討すべき医工学及び規制科学領域の問題点の提起も受けており、これらを踏まえて今回の第2回合同シンポジウムを開催するものである。

本シンポジウムでは、現場に居られる主導的立場の先生方から在宅人工臓器治療の推進に支障となっている問題点を数多く提起して頂けるので、そこから様々な研究テーマに繋げていくことが期待できる。又、研究会では、医学系と工学系とのマッチングをとることも検討している。是非ご来聴頂き、ディスカッションに参加頂けると幸いである。

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© 2021 社団法人日本生体医工学会
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